対の中に揺らぐアイデンティティ
「積極的に異なる意見を持つ人たちと交流することは大切です。今回、皆さんは色んな人と交流して……」
なんの話だったか、勝手に正社員はエピローグを語り出した。
新卒たちはしみじみとした顔をして頷いていた。
——研修二限目が終わった。
「裕翔くん。次の研修だけども……」
知らん間に頭のおかしな間宮とかいう女が話しかけてきている。
その隣には出喜流もいる。
「裕翔!お疲れさん!次の研修だけどよ」
二人が俺に話しかけてくる。
その姿を見ている新卒たちがいた。
——「ねえ、あの人、間宮さんじゃない?」
——「誰?」
——「ほら、役員が直接内定に声かけたって人だよ」
——「あ、ほんとだ。しかもエース新卒の出喜流さんもいるよ」
二人は顔を見合わせた。
——「「でも、あの人、誰?」」
俺を見るや否や、声を揃えてそう言っていた。
俺が聞きたい。
俺は誰なんだよ。
なんで、こんなに話しかけられてるんだよ。
「次は模型自動車の組み立ての授業らしいわね……。こんな新参者の遊びごとに付き合わされるなんて、侮辱してるのかしら?」
間宮はため息をついていた。
「なあ、ユウ!次は四輪プラモデルの授業だってな!俺たち、給料もらってるのに、こんな遊んでていいのかな」
出喜流は、その対極の表情で目を輝かせていた。
「え……あ……」
ただでさえ一人と話すことだって大変だってのに。俺は完全にキャパオーバーだった。
「そうよね。裕翔くん。もっと物理演算とか実用的な講義をしたいわよね」
「やっぱりな!ユウもプラモ好きだよな!」
こいつらはなんで俺と会話してるんだよ。
ていうか、なんで成立してるんだよ。
俺がフィルターになってるのか、二人は全く会話をしてない。
疑問が解消しきれずに、勝手に会話が進む中。
「ところで、万象くんだっけ?さっきから裕翔くんに変なことを吹聴してるけれども」
俺の疑問に答えるようにして間宮が出喜流に声をかけた。
「間宮さんだったっけ?随分と冷笑的だよな」
「あら?冷笑的?違うわ。私は事実を語ってるに過ぎないわ」
間宮は鼻で笑った。
やめてくれ。俺に向いてないのはわかるが、俺の方を見て冷笑されると俺が辛い。
「ふうん。まあいいや。ユウはめっちゃ声でかくて明るいやつだし、嫌がるよ」
やめてくれ。なんで俺に相槌を求めるように目配せするんだよ。
「まだ会って数時間程度でしょう?」
「間宮さんの方こそ、俺よりも短い時間だよな?」
二人はバチバチと睨み合っている。
俺というフィルターを通して。




