天壌之別
一部の人にとっては、少しだけ有益な学び?になるかもしれません。
朝食を食堂で済ませると7時30分になっていた。
ここから、講義までは1時間ほど残っている。
携帯の充電は100%を示しており、受講用の配布資料もバッチリ用意した。
今日の講義は、一階にある大講義室で行われるそうだ。
俺はもちろん、場所は覚えていない。
まず、第一に俺がすべきは……。
俺は社員寮のおおまかなマップと、ルールが大量に刻まれた資料を手に取り開ける。
俺の自室の社員寮は二階の位置にあり、ここに半分ほどの研修生が泊まっている。
そして、二階には新入社員が集えるロビーがある。
「よし、向かうか」
戦略が整った。
およそ1時間前にはなるが、俺は自室を出た。
ロビーには、TVを囲むようにして、小さな椅子とソファが置いてある。
俺はTVで無難にニュースをつける。
そう。誰かについて行く、という至ってシンプルでかつ、シンプルだからこそ揺らがない絶対的戦略に出たのだ。
しかも、一見すると意識の高い優雅な新入社員を装うこともできる。
我ながら最高の戦略じゃないか。
「ふふ」
おっといけない。
思わず笑みが溢れた。
俺が今すべきなのは、朝のニュース『めざましーぬ』に真剣に向き合うことだ。
——「それでは、今日の天気です。今日は四国から九州にかけて……」
眠気のせいで何を言っているのかほぼ頭に入ってはこないが、俺は腕を組み、いかにも考えてる風な感じを出す。
そして、それが30分ほど過ぎた頃だろうか。
睡魔と戦いつつ同行者を待っていると、やがて一人の男がやってきた。
「おお!誰かと思ったらユウじゃん!おはよう」
出喜流だった。
「おはようございます」
「どうした?眠そうだな?」
「昨日少し……」
っと危ない。
ゲームで夜更かしをしていたなんて言えば、俺が意識高くTVをつけた意味を失ってしまう。
「ユウは偉いな!昨日横山さんがしっかり復習するようにって言ってたもんな!」
横山ってそんなやつ、昨日いたか?
まあいい。出喜流が来てくれたんだ。
これで戦略はうまくいった。
「ちょっと早いけどさ、俺たち大講義室に向かおうぜ!」
願ってもない提案だった。
「はい!」
俺は即答すると、出喜流と共に大講義室へ向かった。
なんだよ。拍子抜けだ。
大講義室って昨日終礼をしたところじゃないか。
なんだか損をした気分の俺に気づくはずもなく、出喜流は一番前の席に座った。
俺も、今回は一番前の席についた。
なぜならば、後方の席というのは、俯いても、目元までは隠しづらいからだ。
まだ、講義までは30分ほどあったが、ちらほらと新入社員が集まってきていた。
俺と同じく、同行作戦で来た精鋭たちだろうか。
どことなく聡明な雰囲気をしていた。
さて、俺は作戦その2を実行しようか。
俺は大講義室にある教壇の前に立ってみた。
なるほど……。
席に戻ると、ノートを取り出し、机に広げた。
ノートの位置はこの辺だろうか。
これは、目線が教壇から見て下がる位置。
ここまでだったらただの素人。
だが、俺は違う。
ポケットに入れておいたとっておきを取り出す。
「どうした、ユウ?風邪か?」
「いや、風邪をひきたくないので……」
そうだ。
少しデカめのマスクだ。
これで、目元口元を隠して講義を熟睡する準備が整った。
ここまでで8時20分。
少し準備が入念になってしまったが、準備は本番以上に大事なことだ。
後から入ってきた新入社員たちを見ると、席の後ろの方へ座ってゆく。
情けない。
見ろ。
席の後方を陣取って、寝る気満々だ。
これだから何もわかっていない素人は……。




