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二軸のマトリクス


 朝……か。


 当初の予定では俺は七時間ほどの睡眠を確保する予定だったよな。

 しかし今は無睡で現在時刻は午前6時。

 始業時刻が8時30分。

 そして寮の朝食が7時から。


 どうやら、俺は寝る時間を失ってしまったみたいだ。

 普通の社会人なら間違いなく焦るだろう。

 なぜなら、俺も少し焦ったからだ。


 だが、俺は幾千と同じミスを経験してきていた。そして今、学生と社会人という肩書きが変わったに過ぎないだけだ。何を焦る必要があるのだろうか。そう自分に言い聞かせる。


 ほら、時計を見てみろよ。

 今の6時から朝食の7時まではまだ、1時間もある。

 ここで焦る社会人はわずか1時間の睡眠を選択するだろう。

 だが、それは甘い。眠れなかったという罪悪感とメンタルを誤魔化すだけの悪手に過ぎない。


 俺がすべきなのは……。


 今日の研修内容に目を通す。

 座学、座学、実技、座学、座学。

 各講義はおよそ120分。

 つまり座学は8時間あり、おおよそどれか一つの座学を寝ずに聞けばいいことになる。残りは睡眠に充てることで、昨日不足していた睡眠時間を確保することができるわけだ。


 だが、ここで睡眠予定を立てたと満足しているようじゃ甘い。

 それこそ、一般社会人と同じだ。

 だが、俺は一味違う。

 研修資料の細部まで目を通し、各項目の講義で何をするのかまでを確認する。


 朝一番は偉い人の話。

 その次は人事連絡やマナー講義。

 昼を挟み、実技後は安全教育。

 最後がネットリテラシー講義。


 俺はこの中から、寝ても構わない講義と、寝てはいけない講義を分類するべく、ノートを取り出し、ペンを走らせた。


 そうしてできたものが俺専用、二軸のマトリクスだ。


 縦軸が睡眠をとるべきか否かでの高低。

 横軸は講義の重要度での高低。


 その結果、実技と安全教育は受ける必要性を感じた。これは、俺の命に関わる可能性や、スキルアップに直結しうるものだと思ったからだ。


 しかし、それ以外は別にやる必要を感じない。なぜなら、今の俺にとっては不要なノイズでしかなさそうだったからだ。


 よし。完璧なプランだ。

 きちんとやるべき項目とそうでない項目を分類し、取捨選択していく俺は、間違いなくできる社会人といって差し支えなかろう。


 万全の準備を整えると、時間はすっかりと7時になっていた。


「いやあ、頭使うとお腹が空くな。よし、ご飯を食べに行くか」


 小型ゲーム機の充電器を忘れずに差し込み、俺は朝食を食べに行く。


 ここでも一つ。

 眠気を誘発させないように、量は少なめにな。


 そう自分自身に言い聞かせた。

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