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冒険の始まり


「はあ……」


 思わず大きなため息が溢れた。

 だが、ここで諦める手などはない。

 俺は大きなスーツケースの中を漁った。

 着替えに包まれたPF5を丁寧に取り出し、ゲームディスクを掻き分け、『アレ』を出した。


 あったあった。

 さすが俺だ。

 研修に備えた準備は抜かりない。


 順天堂の最新小型ゲーム機だ。

 これは持ち運びが便利な上に、TVもパソコンもいらない。

 いわば、俺にとっての非常用ゲーム機であり、最後の生命線だ。


 さっそく、俺はゲーム機にカセットを差し込む。

 ああ……。

 かちゃり、と音を立てるカセットは聴覚を刺激する。

 ゲーム機に差し込む指先からは、わずかな反動を受け、触覚を刺激する。

 そしてカセットがピッタリとゲーム機にハマったこの美しさ。


 目と耳、そして手から伝わる感動。


 この感触はダウンロード版では決して味わえない。

 いわゆる、通の嗜みといったところか。


 窓からは夜の暗さが部屋に染み込んできている。

 ゲームソムリエにとって夜は最高のスパイスだ。


 陽の色が映ろうこともない無限の闇は有限の時間をも飲み込み、本来ならば有限である時間をも忘れさせるからだ。


 だが、ソムリエの俺にはまだ暗さが足りない。 


——パチンっ


 電気を落とした。

「ふう。これだよ、これ」

 真っ暗な部屋を電子の光がぼんやりと包み込む。

 これがいいんだよ。


 あとは布団にくるまり、ゲームを起動するだけ。

 

——ソティーのアトリエ2不思議な◯◯と〜


 壮大なオープニングにタイトルコール。

 布団にくるまったことで、音に臨場感が生まれている。

 たまらない。


 普段は贅沢な大型の機器に囲まれていて、小型ゲーム機に触れていなかった。

 だが、これはこれで少し質素な感じも込みで悪くない。

 これは、思っていたよりも、今夜は楽しめそうだ。


 だが、俺はもう立派な社会人だ。

 ゲームの時計を確認すると、今は夜の九時だ。

 十二時までを逆算して、三時間をゲーム時間に割り当てて、それで終わったら今日は寝よう。

 

 さて。

 これから三時間の間、俺を冒険の旅に連れて行ってくれ。


 探索に調合、そして調合に関わるアイテム収集からレベル上げに金策。

 全てをそつなくこなし、奥深いゲームの調合システムを全て把握した上でストーリーは順調に進んでいった。


 そして、気がつけば朝になっていた。

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