役員
俺は恩田に対して、大人気ないと分かっていつつも必殺技を披露してしまった。
そのせいか、あいつは機嫌が悪かった。
理路整然と語る間宮に対しては、無理やり間宮の言い分を曲解した挙句、粗探しをされたりしていた。
出喜流に関しては、声が小さいと怒られていた。
すっかりと恩田に対する新卒たちの目は冷めてしまっていた。
これが正社員か……。
程度の知れた人間だな。
新卒たち同様に、冷めてしまった俺は、ついうっかりと四輪模型を落として壊してしまった。
すると、恩田は水を得た魚のように俺の元へ駆け寄ってきた。
にやにやとしながら楽しそうに俺に話しかけてくる。
よっぽど寂しかったのだろう。
仕方ない。話し相手になってやろうか。
その歪んだ愛情表現。
俺だけは分かってやろうか。
恩田が何か訳の分からないことを話しているので、俺は親身になって返事をしてやる。
「はい。はい……その通りですね」
「話聞いてたんかッ!?お前ッ!」
やれやれ。
そんなにも大きな声を出してしまって。
そんなにでかい声を出さなくたって俺は離れてやらないさ。
恩田の歪んだ愛情を受け入れてやっているうちに研修が終わってしまった。
研修室を出ると、出喜流は俺に声をかけた。
「ユウ……お前、やっぱりすげえよ……俺、正直さ怖かったんだよ」
「え……何がですか?」
「俺が、この会社の役員になりたいって話してただろ?」
役員?
ああ。よく学校のPTAとかで見るやつだな。
なぜこんなに優秀な奴が地域の見守りなんてしたいのだろうか。
だが、その子鹿のように震える瞳には何か深いワケが潜んでそうで、俺は聞けなかった。
「ユウ。お前を見てたらさ、俺の目指す役員の姿ってのは小さかったって気づけたんだよ。ゴマすって、評価にビビってさ……」
いや、小さくなんかないさ。
たしかに地域を見守るその役割は周囲からは過小評価されがちだ。
でもそれは、決して小さいわけじゃない。
むしろ、その偉大さが大きすぎて見えないだけなのさ。
「いや、出喜流さんの目指す姿は小さくなんてないですよ」
いつの間にか、俺は出喜流とまともに会話をできるようになっていた。
これも、出喜流が役員を目指す大きな男だから、俺をここまで導いてくれたんだ。
だから、己の目指す役員ってやつを貫いてほしい。
そう思った。
「ユウ……。俺、お前には敵わねえや」
「万象君……」
どうしてか二人はしんみりとした表情を浮かべていた。
人のいなくなった廊下は、足音一つすら聞こえない静寂に包まれていた。
「だから、俺さ、ゴマするとかそんな狡い真似せず、頑張って、胸を張って役員になろうって思うわ!」
出喜流の役員になりたいという壮大な夢が廊下に響く。
出喜流はそのまま、窓辺から差し込む光を眩しそうに眺めていた。
——いい夢だ。頑張れよ。出喜流。




