第75話「告白工程表(現場監督の悪癖)」
俺は告白を“工程表”にした。
リースが見て叫んだ。「恋を管理するな!」
モップが記録した。《家主、通常運転》
真夜中の迷宮。
俺は自室の机で、魔力灯の薄暗い光を頼りに、一枚の大きな紙と睨み合っていた。
紙の表面には、横軸に時間、縦軸にタスクが引かれた、見事なガントチャートが描かれている。
タイトルは『セレナへの告白・実行工程表』。
俺は前世で現場監督として培ったすべてのスキルを動員し、この一大プロジェクトを完璧に管理しようとしていた。
「よし、第一フェーズは『ムードの構築』だ。照明の明るさ、夕食のメニュー調整、ノアたち外野の排除……。第二フェーズで『言葉の伝達』。セリフは三パターン用意して、リスクを分散する。そして第三フェーズで『承諾の確認』……」
俺はブツブツと独り言を言いながら、炭のペンで細かなタスクを書き込んでいく。
天候(地下の気温)の確認、立ち位置の導線確保、モップの清掃スケジュールの調整。
完璧だ。これならいかなる不測の事態にも対応できる。
俺は満足げに頷き、完成した工程表を持ってリビングへと向かった。
冷たい白湯を一杯飲んで、頭を冷やそうと思ったのだ。
だが、連日の気疲れと徹夜の作業が響き、俺はソファに座ったまま、工程表をテーブルに置いた状態で深い眠りに落ちてしまった。
翌朝。
俺が目を覚ますと、リビングにはすでに迷宮の住人たちが集まっていた。
「……なんだこの軍事作戦書は」
ジャージ姿のリースが、テーブルの上の俺の工程表を手に取り、眉間に深いシワを寄せていた。
「ああっ! それは!」
俺が慌てて飛び起きるが、時すでに遅し。
ノアがリースの横から覗き込み、腹を抱えて爆笑していた。
「ぎゃははは! なんだこれ! 『フェーズ2:セリフAが失敗した場合、直ちにセリフBへ移行』って! お前、告白をシステム開発か何かと勘違いしてないか!?」
「うるさい! 俺にとっては命懸けのプロジェクトなんだよ!」
俺が顔を真っ赤にして工程表を取り返そうとするが、リースはそれをヒョイと避けた。
「ユウ殿、恋をタスク管理するな! 感情は計算で動くものではない。そんな定規で引いたような言葉で、乙女の心が動くと思っているのか!」
規律オタクの騎士に、正論で殴られる。
俺は反論できず、ぐうの音も出なかった。
『本日の報告。家主がまたしても斜め上の努力をしています。現場監督の悪癖ですね。通常運転として記録します』
足元から、モップの呆れ果てた念話が響いた。
その時だ。
「皆さん、朝ごはんの準備が……」
エプロン姿のセレナが、お盆を持って台所から出てきた。
彼女の視線が、リースが掲げている『告白・実行工程表』にピタリと止まる。
「あっ……」
俺の心臓が、文字通り止まりそうになった。
見られた。一番見られたくない相手に、俺の情けない頭の中を。
セレナは工程表のタイトルを読み、青い瞳を瞬かせた。
そして、彼女の顔が、首の根元まで真っ赤に染まっていく。
「これ……家主さんが、書いたんですか?」
セレナの震える声に、俺は消え入りたい衝動と戦いながら、小さく頷いた。
引かれる。絶対に呆れられる。
だが、セレナは俺の予想に反して、ふわりと、とても嬉しそうに微笑んだのだ。
「……わかりました。じゃあ、この工程表通りに、進めてくださいね」
彼女は俺にだけ聞こえるような小声でそう呟き、逃げるように台所へ戻っていった。
俺は顔から火が出るほど照れながらも、腹を決めた。
いよいよ明日が、工程表に記された『実行日』だ。




