↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ダンジョンマスター(仮)ですが、聖女が迷宮を“実家”扱いして出ていきません』  作者: 腐柿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/80

第69話「婚約者(自称)再登場:空気が読めない」

玄関に、またあの爽やかが立っていた。

「迎えに来た」

セレナが笑顔で答えた。「帰ってください」


大監査の嵐が去り、迷宮に平和が戻った。

だが、俺とセレナの間には、俺の『了解です』発言に端を発する塩対応の空気がまだ残っていた。

朝ごはんはしょっぱいし、掃除の時は妙に冷たい。

俺がようやく自分の恋心を自覚したというのに、アプローチする隙すら与えてもらえない状況だ。


そんな気まずい昼下がり。

玄関のチャイムが、またしても空気を読まずに鳴り響いた。


「はーい、今出ます」


セレナがエプロン姿のまま、小走りで玄関へ向かう。

俺も嫌な予感がして、その後を追った。

重い木製の扉が開くと、そこには見覚えのあるプラチナブロンドの男が立っていた。


神殿の筆頭騎士団長の息子であり、セレナの婚約者(自称)のアルベルトだ。


「待たせたね、愛しのセレナ! 先日の大監査の混乱に乗じて、君を救出しに来た!」


アルベルトは芝居がかった手つきで前髪をかき上げ、キメ顔を作っている。

どうやら彼は、大監査の結末(神殿側がただいま結界で弾き飛ばされたこと)を知らされていないらしい。

相変わらず、最高に空気が読めない男だ。


「……迎えに来た」


彼が甘い声で手を差し出した、その瞬間。


「帰ってください(にこ)」


セレナが、ノータイムで答えた。

しかも、今までで一番冷たい、絶対零度の笑顔だった。


「え?」


アルベルトのキメ顔が、空中でフリーズする。


「前回もお伝えしましたが、私はあなたと婚約なんてしていません。それに、今は少し……機嫌が悪いんです」


セレナの言葉に、俺の胃がチクッと痛んだ。

機嫌が悪い原因は、百パーセント俺だ。


「そ、そんな冷たいことを言わないでくれ! 君は神殿の横暴に傷ついているのだろう? 私の胸に飛び込んでくれば……」


アルベルトが一歩踏み込もうとした。

その革靴が、玄関の上がり框を越えそうになる。


今までなら、俺は「またか」と呆れて見ているだけだった。

セレナが実家ルールで彼を撃退するのを、ただ待っているだけだった。


だが、今は違う。

俺の中で、ドス黒い嫉妬と独占欲が、明確に形を成していた。

こいつに、セレナの時間を一秒でも奪わせたくない。

彼女に触れさせるなんて、絶対に嫌だ。


「おい、お前」


俺は、セレナの前にスッと立ち塞がった。


「な、なんだ! (仮)マスター風情が、私とセレナの愛の語らいを邪魔する気か!」


「お前こそ、俺の家の玄関で勝手なことを喚くな。彼女は帰れって言ってるだろ」


俺はアルベルトを真っ直ぐに睨みつけた。

現場監督時代、工期を守らないクソ業者を威圧する時に使っていた、一番ドスの効いた声だ。


「ここは俺と彼女が暮らす、大切な『実家』だ。これ以上、彼女を困らせるなら……力ずくで叩き出すぞ」


俺の言葉に、アルベルトはビクッと肩を震わせた。

ただの一般人であるはずの俺から放たれる気迫に、完全に気圧されている。


「ひ、ひぃっ……! おぼえていろ! 神殿の力は必ず貴様らを……!」


アルベルトは顔を真っ赤にして、捨て台詞を吐きながら逃げ帰っていった。

バタン、と玄関の扉が閉まる。


静まり返った玄関。

俺は少しだけ息を乱しながら、振り返った。


「あ、その……勝手に出しゃばって悪かった」


俺が頭を掻きながら言うと、セレナは目を丸くして俺を見つめていた。

彼女の青い瞳が、パチパチと瞬きをする。


「……家主さん」


「ごめん。でも、あいつがお前に馴れ馴れしくするのが、なんかすごく……嫌だったんだ」


俺が素直な気持ちを口にすると、セレナの顔が、みるみるうちに赤く染まっていった。

純白のドレスの首元までが、朱色に染まっている。


「……ふふっ」


彼女は両手で顔を覆い、小さく笑い声を漏らした。

さっきまでの塩対応の空気は、完全に消え去っていた。


「……今日の夕ご飯、ハンバーグにしますね。お塩は少なめで」


セレナは上目遣いでそう言うと、逃げるように台所へと戻っていった。

甘い花の香りが、玄関にふわりと残る。


『本日の報告。主人公の独占欲による物理的排除を確認。少しはマシになりましたね』


足元のモップが念話を送ってくる。

俺の長く不器用な恋は、ようやく少しだけ前に進んだようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。