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『ダンジョンマスター(仮)ですが、聖女が迷宮を“実家”扱いして出ていきません』  作者: 腐柿


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第66話「ただいま結界」

セレナが玄関に立つ。

住人が並ぶ。モンスターも並ぶ。

みんなで言った。「ただいま!」


「この家は、私たちが帰る場所です。あなたたちのような、心を汚す人の居場所はありません」


セレナの言葉が、凛と響き渡る。

彼女から放たれる清浄な魔力が、玄関の冷たい空気を一瞬にして温かく塗り替えていった。


「戯言を! 結界ごと打ち破れ!」


枢機卿の命令で、神殿の騎士たちが一斉に魔力を練り上げ、剣に光を宿す。

数十人の魔法使いが、一斉に攻撃魔法の詠唱を始めた。

圧倒的な暴力が、この玄関を吹き飛ばそうとしている。


だが、俺たちの後ろから、頼もしい足音が次々と響いてきた。


「ユウ殿、セレナ様! 私が盾になる!」


銀の甲冑を身にまとったリースが、大剣を構えて俺の前に立つ。


「俺の配信カメラが、全部証拠として残してるからな! お前ら全員、社会的に終わらせてやる!」


ノアが水晶玉を高く掲げ、強気な笑みを浮かべる。


「ギィィィッ! 実家を荒らす奴は許さねえッス!」

「オレたちの商店街を守るぞォォ!」


エプロン姿のゴブリンや、前掛けを締めたオークたち。

迷宮のコンシェルジュとなった魔物たちが、モップやフライパンを武器にして集結してきた。


そして、泣きはらした目のマリアも、震える足で立ち上がり、セレナの隣に並んだ。


「私も……もう逃げません」


全員が、この実家を守るために立ち上がったのだ。


『本日の報告。ホーム指数が計測限界を突破。究極の防衛システムを起動します』


足元から這い上がってきたモップが、黄金の光を放って玄関の床に魔法陣を展開する。

俺の左手の薬指と、セレナの薬指に刻まれた金色の紋章が、呼応するように熱を帯びた。


「みんな、準備はいいですか?」


セレナが、振り返って全員に微笑みかけた。

リースも、ノアも、魔物たちも、マリアも、そして俺も。

全員が力強く頷く。


この世界は、布でできている。

そして、帰る場所に縫い直しを入れる最強の魔法の言葉がある。


「せーの」


セレナの合図で、迷宮の住人全員が、声を揃えて叫んだ。


「ただいま!!」


その瞬間。

鼓膜を揺るがすような轟音と共に、迷宮の玄関から凄まじい光の波動が爆発した。


ゴゴゴゴゴォォォッ!!


光は巨大なドーム状の壁となり、玄関の空間を完全に覆い尽くす。

神殿の魔法使いが放った炎や雷の魔法が、光の壁に触れた瞬間に「ポンッ」と間抜けな音を立てて消滅した。

騎士たちが振り下ろした剣は、見えないゴム鞠に弾かれたように跳ね返される。


「な、なんだこのふざけた結界は……! 破れん! どんな攻撃も通じないだと!?」


枢機卿が目を見開いて叫ぶ。


これが、日常と生活感の結晶。

外の悪意を一切寄せ付けない、最強にして不可侵の『ただいま結界』だ。


光の壁はそのままゆっくりと前進し、枢機卿や騎士たちを、まるで巨大なホウキで掃き出すように迷宮の外へと押し出していく。


「馬鹿な……我々神殿が、こんな……!」


彼らの悲鳴は、バタンッ! という重い扉が閉まる音によって完全に遮断された。

扉には、見えない光の鍵がガチャンと何重にもかけられる。


俺の迷宮は、神殿の総攻撃を、たった一言の挨拶で完全に退けたのだった。

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