↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ダンジョンマスター(仮)ですが、聖女が迷宮を“実家”扱いして出ていきません』  作者: 腐柿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/80

第58話「監査官宿泊回(地獄)」

夜中に廊下を歩く足音がする。

監査官だ。白手袋だ。最悪だ。

モップが囁いた。「排除します(丁寧に)」


監査官が泊まりに来たその日の夜は、地獄だった。

彼は「宿泊監査」という名目を盾に、家中のありとあらゆる場所を重箱の隅をつつくようにチェックして回ったのだ。


「台所のシンクに水滴が残っている! 不潔だ!」

「脱衣所のタオルの畳み方が均一ではない! 規律が乱れている証拠だ!」


夕食の時も、彼は白手袋を外さずに箸を持ち、セレナの作った肉じゃがの具材の切り方にまでケチをつけた。

俺の胃薬の消費量は、過去最高記録を更新しつつあった。


そして、夜中。

草木も眠る丑三つ時。


ペタ……ペタ……。


薄暗い廊下を、スリッパが擦れる音が歩き回っている。

俺は布団の中で目を覚まし、そっと扉の隙間から廊下を覗き込んだ。


そこには、パジャマ姿の監査官が、白手袋をはめた手で壁の木目をなぞっている姿があった。

彼は手袋の裏返し、汚れがついていないか懐中電灯のような魔道具で照らして確認している。


「……最悪だ」


完全にただの嫌がらせだ。

このままでは、俺もセレナもノイローゼになってしまう。

俺が注意しに行こうと立ち上がりかけた、その時だった。


『……排除します(丁寧に)』


足元から、氷のように冷たい念話が響いた。

青いスライムのモップだ。

彼の半透明の体は、怒りでブルブルと小刻みに震え、表面からはシュワシュワと細かい泡が立っていた。


『真夜中に廊下をうろつくなど、ホコリを舞い上げるだけの愚行。我が清掃領域に対する明確な挑戦と受け取ります』


「お、おいモップ、やりすぎるなよ。一応あれでも公人だからな」


俺の制止も虚しく、モップはスススッと音もなく廊下へと滑り出ていった。


「フン……この壁の隅、ほんのわずかにチリが……」


監査官が壁に顔を近づけた、その瞬間。


『洗浄液、噴射』


プシューッ!!


モップの体から、強烈な石鹸の匂いを放つ謎の液体が、監査官の顔面に向かって正確に発射された。


「ぶふぁっ!? な、なんだこれは! 目が、目に染みるゥゥ!」


監査官が悲鳴を上げて顔を覆う。

だが、モップの追撃は止まらない。


『靴の裏が汚れています。消毒します』


モップは監査官の足元に広がり、彼が履いていたスリッパごと、両足をツルンと滑らせた。


「うわあああっ!」


監査官は派手に尻餅をつき、ワックスがけされたばかりの廊下を、ものすごい勢いで滑っていく。

まるでカーリングのストーンのように、彼は真っ直ぐ玄関の方へと滑らされていく。


『不燃ゴミは、外へ』


ガチャッ! バタンッ!


玄関の扉が自動で開き、監査官はそのまま迷宮の外へと勢いよく排出された。

そして、無情にも扉はきっちりと施錠された。


「……えげつないな」


俺が呆然と呟くと、モップは満足げに体を震わせ、俺の足元に戻ってきた。


『本日の報告。深夜の徘徊ゴミを排除完了。これで朝まで静かに眠れますね、家主様』


こうして、厄介な監査官による宿泊地獄は、モップの「丁寧な排除」によってたった一晩で幕を閉じたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。