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『ダンジョンマスター(仮)ですが、聖女が迷宮を“実家”扱いして出ていきません』  作者: 腐柿


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第52話「モップの正体チラ見せ」

モップが壁に手(?)を当てた。

一瞬だけ、古代文字が光った。

でも次の瞬間、「汚れが…」で全部台無しになった。


「では、面接を始める」


ハインリヒはほうじ茶を一口すすり、気を取り直すように咳払いをした。

彼の目は再び審査官の鋭さを取り戻している。


「迷宮の主たる者、その空間の構造と防衛機構を完全に把握していなければならない。この迷宮の壁の魔力強度はどれくらいだ?」


いきなりの専門的な質問。

現場監督としての経験はあるが、魔法理論など俺の知識外だ。


「えっと、その……かなり頑丈にできていると思います。木造に見えますが、大黒柱はしっかりしていて……」


俺がしどろもどろに答えていると、足元から「ぷるん」という音がした。


『お答えします。当迷宮の壁面は、神代の結界魔法をベースにした多重構造となっており、物理的・魔力的な衝撃の九十九パーセントを吸収・分散する仕様です』


モップの無機質な念話が、リビングに響き渡った。


「な、なんだこのスライムは!? 高度な念話を使えるだと!?」


ハインリヒが驚愕して椅子から腰を浮かす。


『私は清掃管理責任者のモップです。家主様は現場の統括でお忙しいので、細かな数値データは私が管理しております』


モップはそう言うと、半透明の体をうねらせ、近くの壁に触手のようなもの(手?)を伸ばしてペタッと張り付けた。


その瞬間。

モップの体と壁が接触した部分から、まばゆい金色の光が放たれた。


「おおっ!?」


壁の表面に、見たこともない複雑な古代文字が円陣を描いて浮かび上がったのだ。

空気が震え、圧倒的な魔力の奔流がリビングを駆け抜ける。

ただのスライムが扱えるような代物ではない。これは、迷宮の深層システムに直接アクセスする権限を持つ者だけの……。


「こ、この古代文字は……! 伝説に聞く、星を砕く兵器の起動シーケンス……! 貴様、一体何者だ!」


ハインリヒが顔を真っ青にして叫んだ。

リースも剣の柄に手をかけ、息を呑んでいる。

俺の迷宮の清掃員は、とんでもない正体を隠し持っていたのか。


空気が極限まで張り詰めた、その次の瞬間だった。


『……あ。壁の隅に、クモの巣が張っていますね』


モップから発せられた黄金の光と古代文字が、プツンと音を立てて消滅した。


『不潔です。万死に値します。直ちに除去しなければ』


モップは古代兵器の起動など完全に忘れ去り、シュバババッ! と音を立てて壁の隅へと這い上がっていった。

そして、体内に抱え込んだ小さなモップで、一生懸命にクモの巣を絡め取り始めたのだ。


「…………え?」


ハインリヒの口から、間抜けな声が漏れた。

緊迫した空気は、見事に全部台無しになった。


「あー、その……うちの清掃員は、ちょっと汚れに厳しくてですね。強度証明は今の光で大丈夫ですか?」


俺が苦笑いしながら尋ねると、審査官は完全に毒気を抜かれた顔で、深く深くため息をついた。


「……規格外すぎる。お前たちの迷宮は、常識という物差しで測るのが間違っているらしい」


ハインリヒはバインダーに大きな丸を書き込み、パタンと閉じた。


俺の胃痛と引き換えに、迷宮の本登録への道は、モップの掃除への執念によって無理やり切り開かれたのだった。

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