第50話「家族写真回」
セレナが写真魔法の板を出した。
「記録しましょう。帰省の思い出です」
リースが震えた。「永久保存……!」
文化祭の熱気も冷めやり、迷宮にいつもの静かな夜が戻ってきた。
屋台の撤収作業も終わり、俺たちはリビングでほうじ茶を飲みながらくつろいでいた。
「楽しかったですね、文化祭」
セレナが湯呑みを両手で包み込みながら、ふわりと微笑んだ。
昼間の嫉妬モードは、俺が平謝りして彼女の作った串焼きを十本一気食いしたことで、なんとか解除されていた。
胃薬の消費量は増えたが、命があるだけマシだ。
「そうだな。でも、毎日あんな騒ぎだと俺の胃がもたないよ」
俺が苦笑すると、セレナは立ち上がり、棚の奥から一枚の黒い石板を取り出してきた。
表面が滑らかに磨き上げられた、魔法の道具だ。
「これ、商店街の骨董屋で見つけたんです。写真魔法の板」
セレナは嬉しそうに石板を胸に抱いた。
被写体に向けて魔力を流すと、その瞬間の風景を紙に写し取ることができるという、便利なアーティファクトだ。
「記録しましょう。せっかくの帰省の思い出ですから」
彼女の言葉に、部屋の隅で子猫を撫でていたリースが、ガタッと立ち上がった。
「しゃ、写真魔法だと……!? この私が、聖女様と共に一枚の絵に収まるというのか!」
リースの顔が真っ赤になり、体が小刻みに震えている。
「永久保存……! 末代までの家宝にせねば! 私は少し鎧を磨いてくる!」
「おいリース、ただの記念撮影だぞ。ジャージのままでいいだろ」
俺が止めるのも聞かず、リースは客間へとすっ飛んでいった。
数分後、彼女はピカピカに磨き上げられた銀の甲冑姿で戻ってきた。
完全に戦場に行くフル装備だ。
「よし、撮るぞー! 俺がカメラマンやるから、みんな集まって!」
ノアが石板を構え、俺とセレナ、そしてリースの立ち位置を指示する。
「家主、もっとセレナさんに寄って! 夫婦感出して!」
「ばっ、お前……変な煽り方するな!」
俺が照れて距離を取ろうとすると、セレナがすっと俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。
密着する肩と肩。彼女から漂う甘い花の香りが、俺の思考を真っ白にする。
「逃げないでくださいね、家主さん」
上目遣いで微笑む彼女の顔は、反則的なまでに可愛かった。
『画角に入ります。床の汚れは写さないでください』
足元からモップが這い上がり、俺とセレナの足の間に陣取った。
甲冑姿で直立不動のリース、腕を組んで照れる俺、笑顔で寄り添うセレナ、そして半透明のスライム。
なんともちぐはぐで、おかしな家族だ。
「はい、チーズ!」
ノアの掛け声と共に、石板がまばゆい光を放つ。
数秒後、石板のスリットから一枚の紙が吐き出された。
そこには、俺たちの少し不格好だけど、確かに温かい日常の姿が克明に写し出されていた。
「……いい写真ですね」
セレナが嬉しそうに目を細め、その写真を大事そうに胸に抱きしめた。
俺も、その写真を見つめながら小さく頷いた。
この馬鹿馬鹿しくて愛おしい日々が、いつまでも続けばいい。
俺の胸の奥に、確かな宝物が一つ増えた瞬間だった。




