第49話「文化祭:迷宮屋台」
骸骨が焼きそばを焼いている。
スライムが飴を配っている。
セレナが静かに言った。「……人気者ですね、ユウさん」
魔王軍の視察団が飛竜の肉を置いていった翌日。
その極上の肉を消費するため、そして商店街の魔物たちの謎のテンションの高まりによって、迷宮内では突発的な「文化祭」が開催されていた。
どこからともなく紅白の幕が張られ、天井からは色とりどりの提灯がぶら下がっている。
ソースの焦げる匂いと、肉が焼ける香ばしい煙が、地下空間に充満していた。
ここはダンジョンだ。命を懸けて冒険者が挑むべき迷宮のはずだ。
それがどうして、りんご飴やたこ焼きを売る屋台が立ち並ぶ縁日になっているのか。
俺は受付カウンターで、次々とやってくる観光客や魔族の客たちの対応に追われていた。
「家主さん! 飛竜の串焼き、すっごく美味しいです!」
「あの、一緒に写真魔法で撮ってもらえませんか?」
若い女性客たちが、俺を取り囲んで黄色い声を上げている。
ノアの配信のせいで「素朴で優しい迷宮の主」という変なブランドが定着してしまったらしく、俺の扱いは完全に地元のアイドルだった。
「あ、いや、写真はちょっと……。串焼きなら向こうの屋台でオークが焼いてるから」
俺が愛想笑いを浮かべて躱そうとしていると、背後からスッと冷たい風が吹いた。
「……人気者ですね、ユウさん」
振り返ると、純白のドレスの上に法被を羽織ったセレナが立っていた。
手には、綺麗に焼き上がった飛竜の串焼きを何本も持っている。
「おお、セレナ。差し入れか? ありがたい、昼飯食いそびれてて……」
俺が手を伸ばそうとすると、彼女はスッと串焼きを後ろに隠した。
「あれだけたくさんの女の人に囲まれていれば、お腹なんて空かないんじゃないですか?(にこ)」
出た。最強の笑顔圧だ。
青い瞳の奥が、全く笑っていない。
絶対零度の冷気が、熱気にあふれていたはずの受付カウンター周辺を一瞬にして凍りつかせた。
「いや、俺はただ案内をしてただけで……」
「そうですか。なら、私の焼いた串焼きなんて必要ないですね」
セレナは踵を返し、足早にリビングの方へと歩き去ってしまった。
『本日の報告。主人公の無自覚なモテ行動により、セレナ様の嫉妬メーターが臨界を突破。夕食の味噌汁の塩分濃度が致死量に達する危険性を検知しました』
足元でモップが震えながら念話を送ってくる。
「お前、実況してる暇があったら助けてくれよ!」
『業務外です。ご自身の撒いた種は、ご自身で刈り取ってください』
モップは無情にも言い捨て、屋台から落ちたソースのシミを拭きに去っていった。
女性客たちの黄色い声援も、今や俺にとっては死へのカウントダウンにしか聞こえない。
俺は文化祭の喧騒の中で、必死にセレナの機嫌を直すための「計画」を頭の中で組み直していた。




