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『ダンジョンマスター(仮)ですが、聖女が迷宮を“実家”扱いして出ていきません』  作者: 腐柿


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第36話「炎上回:監禁疑惑」

街に貼られたビラに書かれていた。

『聖女監禁! 未登録迷宮の闇!』

セレナが筆を取る。「訂正します。“帰省”です」


完璧な偽聖女・マリアを玄関先で「靴を脱げ」とあしらって追い返した翌日。

迷宮の外の世界では、とんでもない事態が引き起こされていた。


「家主! 大変だ! 街中がとんでもないことになってるぞ!」


買い出しに行っていたノアが、息を切らして迷宮に飛び込んできた。

彼の手には、くしゃくしゃになった何枚もの紙の束が握られている。

水晶玉のカメラは回っていない。ガチで焦っている時の顔だ。


「どうした、ノア。落ち着いて話せ」


俺が白湯を渡すと、ノアはそれを一気に飲み干し、持っていた紙をダイニングテーブルに叩きつけた。


「これを見てくれ!」


そこに書かれていたのは、血文字のように赤い大ぶりの活字だった。


『悲報! 元聖女セレナ、悪しき迷宮の主に監禁される!』

『未登録迷宮の闇! 洗脳された聖女を救え!』

『新聖女マリア様の涙の訴え! 私たちが立ち上がらねば!』


「なんだこれ……」


俺は絶句した。

ビラには、昨日マリアが玄関先で悲痛な顔を作っていた瞬間の、魔法で描かれたような挿絵まで載っている。


「マリアって女が、神殿の広報部を使って街中にビラを撒き散らしたんだ。しかも、御用商人を使って噂を爆発的に広めてる。今、街の世論は完全に『迷宮討伐』に傾いてるぞ!」


ノアの報告に、俺の胃がキリキリと悲鳴を上げた。

神殿の奴ら、ついに情報戦という手段に打って出たか。

大衆の同情を買い、自分たちの討伐を正当化する。

あのマリアという女の「完璧な外面」は、この世論操作のためにあったのだ。


「卑劣な手段だ! 正面から戦わずして、民衆を扇動するなど騎士の風上にも置けん!」


ジャージ姿のリースが机を叩いて激怒する。


「怒っても始まらない。このままじゃ、本当に何万人規模の討伐隊が押し寄せてくるぞ」


俺が頭を抱えていると、台所からセレナが静かに歩み出てきた。

彼女はテーブルの上のビラを手に取り、じっと見つめる。


「……監禁、ですか」


彼女の声は低く、冷たかった。


「セレナ、ここは危ない。お前だけでも一時的に避難した方が……」


俺が言いかけると、セレナは首を横に振った。


「逃げる必要はありません。実家の悪口を言われて、黙っているわけにはいきませんから」


彼女はそう言うと、引き出しから綺麗な和紙と炭のペンを取り出した。


「何をする気だ?」


「訂正します。間違った情報は、正しく直さないと」


セレナはペンを握り、スラスラと美しい文字を書き付け始めた。


『監禁ではありません。“帰省”です。

 ごはんは美味しいし、お風呂は温かいです。

 神殿の嘘に騙されないでください。 セレナ』


「おい、いくらなんでも素朴すぎるだろ!」


「大丈夫です。真実は、飾らない言葉の方が伝わりますから」


セレナはふわりと微笑み、書き上げた紙をノアに手渡した。


「ノアさん。これ、配信で映してくれませんか?」


「……マジで? いや、これ面白すぎるだろ!」


ノアの配信者としての血が騒いだのか、彼の瞳に怪しい光が宿った。


『本日の報告。情報戦におけるカウンター攻撃を開始。なお、偽聖女のビラは燃えるゴミに出しておきます』


足元でモップが震え、テーブルのビラを体内に取り込んでいく。


神殿の巨大な権力と世論操作に対し、俺たちは「実家の真実」という名の超個人的な声明で立ち向かうことになった。

俺の迷宮運営は、ついに国全体を巻き込む炎上騒動へと発展してしまったのだ。

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