↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ダンジョンマスター(仮)ですが、聖女が迷宮を“実家”扱いして出ていきません』  作者: 腐柿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/80

第35話「偽聖女登場(完璧でウザい)」

“もう一人の聖女”が現れた。

完璧な笑顔、完璧な祈り、完璧な口調。

モップが小声で言う。「完璧は信用できません」


台所での密室事件から数日。

俺の心臓は、セレナと顔を合わせるたびに不規則なビートを刻むようになっていた。

現場監督として冷静さを保たねばならないのに、ポンコツ化が著しい。


そんな俺の悩みなど知る由もなく、神殿は次なる刺客を送り込んできた。


「神殿からの使節団がお見えッス!」


受付を担当していたゴブリンが、慌てた様子でリビングへと駆け込んできた。

またか。書類、刺客、監査官、婚約者。

今度は何を持ってきたというのか。


俺が重い足取りで玄関に向かうと、そこには異様な光景が広がっていた。


眩いばかりの光を放つ、巨大な天蓋付きの神輿。

それを担ぐ数十人の屈強な神殿騎士。

そして、その神輿の中心で、純白の法衣を身にまとった少女が静かに祈りを捧げている。


金糸のように輝くブロンドの髪。

汚れを一切知らないような、透き通るような白い肌。

彼女はゆっくりと目を開け、慈愛に満ちた笑顔をこちらに向けた。


「迷える迷宮の主よ。光の導きがあらんことを」


声まで完璧に透き通っている。

まるで、絵画から抜け出してきたような「聖女」の理想像そのものだった。


「初めまして。私は神殿より新たに聖女の座を拝命いたしました、マリアと申します」


彼女は神輿から優雅に降り立ち、上がり框の手前で深く一礼した。


「新しい聖女……?」


俺が目を白黒させていると、奥からセレナが歩み出てきた。

エプロン姿のままである。


マリアはセレナの姿を認めると、これ見よがしに悲痛な表情を作った。


「ああ、セレナ様……。かつて国を導いたあなたが、このような薄暗い地下で、しかもそのような下働きの服を着せられているなんて。どれほど辛い思いを……」


マリアは両手を組み合わせ、涙ぐむ演技を完璧にこなす。


「ご心配なく。私はただ、実家で暮らしているだけですから」


セレナは淡々と返し、全く動じる様子はない。


「強がらなくても結構ですよ。神殿はあなたの過ちを許し、再び光の元へ迎え入れる準備があります。さあ、私と共に帰りましょう」


マリアは美しい手を差し伸べた。

言葉遣いは丁寧で、態度は優雅。

非の打ち所がない、完璧な外面だ。


だが、俺の足元で震えていたモップが、冷たい念話を送ってきた。


『家主様。あの女の靴底には、香水のきつい匂いと、微かな泥汚れが隠されています。完璧に装っていますが、本性はドロドロの承認欲求の塊です。信用できません』


モップの毒舌探知機が、マリアの正体を正確に弾き出していた。


「あの、マリアさんと言ったか。迎えに来てくれたのはありがたいが、俺たちは……」


俺が断り文句を口にしようとした、その時だ。


「泥靴で上がらないでください(にこ)」


セレナが、マリアの足元を指差してふわりと微笑んだ。


「え……?」


マリアの完璧な笑顔が、一瞬だけ引き攣った。


「ここは私の実家です。靴を脱いで、揃えてから上がってくださいね」


「わ、私が靴を脱ぐ……? 神に仕えるこの私が、このような薄汚い床に素足を……」


マリアの声に、微かな苛立ちが混じる。

彼女の完璧な外面が、セレナの「実家ルール」という理不尽な壁の前で少しずつ剥がれ落ちようとしていた。


厄介な悪役の登場。

だが、俺の迷宮はすでに、どんな完璧な聖女だろうと靴を脱がせる魔境と化していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。