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『ダンジョンマスター(仮)ですが、聖女が迷宮を“実家”扱いして出ていきません』  作者: 腐柿


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第23話「ノア案件配信」

ノアが看板を掲げた。「本日は案件でーす!」

セレナが微笑む。「帰省の案件……?」

コメント欄が叫ぶ。「結婚しろ!!!!」


観光客の列が途切れた、ある日の午後。

迷宮のリビングでは、ノアが宙に浮く水晶玉に向かってハイテンションで喋っていた。


「はいどーも! 迷宮専属広報のノアです! 今日はなんと、ギルドから正式な案件をいただいております!」


ノアの言葉に、俺はソファで白湯を吹き出しそうになった。


「は? ギルドから案件? 未登録の違法迷宮になんでそんなもんが来るんだよ!」


「いやー、実は監査官のロイドさんから直接依頼がありまして。『あまりにも観光客が多すぎるから、安全性をアピールする公式配信をしてくれ』って」


どうやらギルド側も、連日押し寄せる群衆の管理に音を上げたらしい。

討伐するにも世論の反発が怖く、かといって放置もできない。

結果として「安全な観光地」として公式に認める方向へシフトしたということか。

役所の事勿れ主義もここまで来ると立派なものだ。


「というわけで、今日はこの迷宮の魅力と、家主と聖女様のラブラブな日常をお届けしまーす!」


「おい、後半の趣旨が変わってるぞ!」


俺のツッコミを無視して、ノアは水晶玉をセレナの方へと向けた。

彼女は台所のカウンターで、夕食の下ごしらえをしている最中だった。

純白のドレスに割烹着。もはやこの迷宮の制服と化している。


「セレナさーん! 今日の案件について一言お願いします!」


「案件……? よくわかりませんが、今夜の帰省メニューはハンバーグですよ」


セレナが首をかしげて微笑むと、水晶玉の向こう側でコメントが滝のように流れ始めた。


『聖女様のハンバーグ!? 食いてええええ!』

『帰省の案件ってなんだよwww』

『エプロン姿の破壊力が高すぎる』

『で、家主さんとはいつ結婚するんですか?』


「だから結婚なんてしないっての! 俺はただの(仮)マスターで……」


俺が慌てて否定しようとすると、セレナが包丁を置いた。


「家主さん、味見をお願いします」


彼女は小皿に乗せたハンバーグのタネの一部(焼いたもの)を、爪楊枝に刺して俺の口元へと差し出してきた。


「えっ……あ、自分でやるから……」


「はい、あーん」


有無を言わさぬ笑顔。

距離が近い。彼女から漂う甘い石鹸の香りと、ハンバーグの肉汁の匂いが混ざり合って、脳の処理能力を奪っていく。

俺は抗うことを諦め、大人しく口を開けた。


「……美味い」


「ふふっ、よかったです」


セレナが嬉しそうに目を細める。

その瞬間、水晶玉のコメント欄が爆発した。


『あーーーーーっ!!!』

『ただの夫婦じゃねえか!!』

『結婚しろ!!!!』

『ていうかもうしてるだろ!! 祝儀どこに払えばいい!?』

『家主爆発しろ! いや幸せにしろ!』


凄まじい勢いで流れる文字の群れ。

全国の視聴者が、俺とセレナのやり取りに熱狂している。


「ほらほら、リスナーの皆さんが盛り上がってますよー! リースさんもどうですか!」


ノアがカメラを振ると、部屋の隅で子猫を撫でていたリースがビクッと肩を揺らした。


「わ、私は任務中だ! 決して、このハンバーグを楽しみに待っているわけではない!」


顔を真っ赤にして叫ぶ騎士の姿に、コメント欄はさらに加速した。

『チョロ騎士かわええええ』と書かれているのが見える。


俺は真っ赤になった顔を隠すように、深くため息をついた。

外野からの圧が強すぎる。

俺の現場監督としての冷静な判断力は、この実家のぬるま湯と甘い空気によって、確実に削り取られていた。

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