第22話「モンスター面接回」
「志望動機は?」
ゴブリンが胸を張った。「食堂で働きたいッス!」
リースが吠えた。「敬礼が甘い!」
観光客の増加により、俺の迷宮は深刻な人手不足に陥っていた。
案内係のセレナ、警備主任のリース、広報のノア、そして清掃担当のモップ。
限界だ。俺の胃も、現場のオペレーションも。
「従業員を雇うしかない」
俺がそう決断した翌日。
なぜか未登録迷宮の食堂に、近隣の山や地下から野生のモンスターたちが大挙して押し寄せてきた。
どうやら、迷宮から漏れ出す「美味そうなご飯の匂い」と「異常なまでの居心地の良さ」に惹きつけられたらしい。
俺はダイニングテーブルに座り、目の前に並ぶ異形の者たちを見渡した。
「えー、では面接を始める」
俺の言葉に、一番前に立っていたゴブリンが一歩前に出た。
腰に粗末な布を巻き、手にはなぜか木のお玉を持っている。
「志望動機は?」
「食堂で働きたいッス! ここの肉じゃがの匂い、最高ッス!」
ゴブリンは目を輝かせながら、胸を張って答えた。
人を襲う凶悪な魔物というより、ただの腹ペコな若者にしか見えない。
「貴様! 面接官への敬礼が甘い! 角度は四十五度、指先までピンと伸ばせ!」
俺の横に立っていたリースが、ジャージ姿のまま怒鳴り声を上げた。
規律オタクの彼女は、完全に面接官(兼、軍隊の教官)の顔になっている。
「ひぃっ! す、すんませんッス!」
ゴブリンが慌てて綺麗な敬礼をする。
なんだこの空間。ここは本当にファンタジー世界なのか。
「リース、落ち着け。うちは軍隊じゃなくて実家なんだから」
俺がなだめていると、エプロン姿のセレナがお茶の入った急須を持ってやってきた。
「面接、お疲れ様です。皆さんもお茶をどうぞ」
セレナがゴブリンや、後ろに並んでいるオーク、スケルトンたちに湯呑みを配り始める。
「あ、あざッス……」
「聖女様からお茶を……光栄の極み……」
モンスターたちが震える手で湯呑みを受け取り、ほうじ茶をすする。
その瞬間、彼らの瞳から凶暴な光が完全に消え去った。
「うめえ……なんだこれ、心が洗われる……」
「オレ、ここで骨を埋める……いや元々骨だけど……」
「よし、全員採用だ」
俺は額を押さえたまま宣言した。
もうどうにでもなれ、というヤケクソな気持ちだった。
実家ルールと美味しいご飯の前では、人間も魔物も関係ないらしい。
「ただし、条件がある」
俺はテーブルの上に広げた木板を指差した。
「モップ先輩の清掃指導に従うこと。そして、お客様には絶対に手を出さないことだ」
『当然です。毛が落ちるオークは入浴を義務付けます。ゴブリンは爪を切りなさい。不潔は万死に値します』
足元で震える半透明のスライムが、容赦ない念話をモンスターたちの脳内に叩き込む。
屈強な魔物たちが、たかがスライムの圧力に怯えて後ずさった。
「それと、一番大切なことです」
セレナがふわりと微笑みながら、モンスターたちに向き直った。
「お客様が帰る時は、笑顔で『いってらっしゃい』。帰ってきた時は『おかえりなさい』。挨拶は基本ですからね(にこ)」
「は、はいィィィッ!」
圧倒的な笑顔の圧力に、モンスターたちは直立不動で叫んだ。
こうして、俺の迷宮には『コンシェルジュ化した魔物たち』という新たな住人が加わった。
彼らはエプロンや蝶ネクタイを身につけ、迷宮の各所で働き始めることになる。
討伐に来た冒険者が、ゴブリンに「おしぼりどうぞ」と渡されて戸惑う未来が見えるようだった。




