↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ダンジョンマスター(仮)ですが、聖女が迷宮を“実家”扱いして出ていきません』  作者: 腐柿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/80

第16話「リース、実質クビ」

リースの首に、神殿の命令札が届いた。

『帰還せよ。従わねば処刑』

セレナが静かに言う。「帰ってくる場所、ここですよね?」


保健室での一件から数日後。

俺の体調はすっかり回復し、迷宮の日常は相変わらずのドタバタを繰り返していた。


だが、その日の朝の空気は、いつもと少し違っていた。

ダイニングテーブルの空気が、不自然なほど重い。


原因は、リースの手元に置かれた一枚の黒い木札だった。

血のような赤い文字で、短い文章が刻まれている。


『対象の奪還に時間をかけすぎている。直ちに帰還せよ。従わねば異端として処刑する』


神殿の上層部からの、最終通告だった。


リースはジャージ姿のまま、両手を膝の上で固く握り締めていた。

彼女の顔色は青ざめ、いつもの凛とした騎士の面影は消え失せている。

冷たい地下の空気が、彼女の肩を震わせているように見えた。


「……私は、帰らねばならない」


リースが絞り出すように呟いた。


「神殿の命は絶対だ。規律を守れぬ者は、騎士を名乗る資格がない。私は……」


言葉の尻が震えている。

彼女が本当に帰りたいのかどうか、顔を見れば一目瞭然だった。

この温かい出汁の匂いがする台所、ふかふかの布団がある客間、そして何より、自分を客人として扱ってくれる俺たちとの生活。

彼女はすでに、この場所に居場所を見つけてしまっていたのだ。


「帰ったら、処刑されるかもしれないんだろ?」


俺が尋ねると、リースは俯いたまま答えた。


「失敗の責任は問われる。厳しい尋問を受け、最悪の場合は……。だが、それが神殿に仕える者の宿命だ」


理不尽すぎる。

俺は現場監督時代、無茶な工期を押し付けてくるクソみたいな発注元を何度も見てきた。

今の神殿のやり口は、完全にブラック企業そのものだ。


「行くの、やめたらどうだ」


俺の言葉に、リースがハッと顔を上げた。


「何を馬鹿なことを! 私が戻らねば、今度は本隊がここへ攻め込んでくる! お前たちまで巻き込むことになるんだぞ!」


彼女の悲痛な叫びが響く。

自分が犠牲になることで、この場所を守ろうとしているのだ。


その時だった。

台所で目玉焼きを焼いていたセレナが、静かに火を止め、こちらへと歩いてきた。

彼女の顔からは、いつもの柔らかな笑顔が消えていた。


セレナはリースの前に立ち、その震える両手を優しく包み込んだ。


「リース」


「せ、聖女様……」


「神殿は、あなたを道具としてしか見ていません。でも、ここは違います」


セレナの青い瞳が、まっすぐにリースを射抜く。

そこには、慈愛と、そして絶対に譲らないという強固な意志があった。


「帰ってくる場所、ここですよね?」


その一言が、リースの張り詰めていた糸を断ち切った。


「あ……う、うっ……」


厳格な騎士の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

彼女はセレナの手を握り返し、子どものように声を上げて泣き始めた。


「でも……神殿が……!」


「大丈夫です。実家の門限を破るような悪い子は、私が許しませんから」


セレナは再びふわりと微笑み、リースの背中を優しく撫でた。


俺はため息をつき、頭を掻いた。

これで完全に、神殿と正面から対立することになってしまった。

だが、不思議と後悔はなかった。


「ま、住み込み確定ってことだな。リース、今日からお前もここの正式な住人だ」


『規約の更新を検知。リース様を住人として登録します』


足元でモップが震える。


こうして、神殿の精鋭騎士は実質クビとなり、未登録迷宮の警備主任(ジャージ姿)として再就職を果たしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。