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『ダンジョンマスター(仮)ですが、聖女が迷宮を“実家”扱いして出ていきません』  作者: 腐柿


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第12話「ノア、炎上狙いで凸」

「未登録迷宮に聖女監禁!?今から突撃しまーす!」

叫びながら入ってきた少年が、三分後。

泣きながら言った。「ここ、落ち着く……」


監査官ロイドが聖女疑惑でパニックに陥っている頃、ダンジョンの外では別の騒ぎが起きていた。


「はいどーも! 皆さん見てますかー!?」


入口の扉を蹴り開けるようにして入ってきたのは、派手なストリートファッションに身を包んだ少年だった。

片手には、宙に浮く水晶玉のような魔道具を持っている。

『配信魔法』だ。

この世界の通信技術を使った、いわゆる生放送である。


「巷で噂の未登録迷宮! なんとここに、国の象徴である聖女様が監禁されているというタレコミがありました! 今から俺、ノアが真実を暴きに突撃しまーす!」


少年――ノアは、カメラ代わりの水晶玉に向かって大げさに叫んだ。


俺は頭を抱えた。

神殿、ギルド、そして今度は配信者か。

厄介者が次から次へとやってくる。


「おい、勝手に入ってくるな!」


俺が制止しようとしたが、ノアは止まらない。


「おっと、あいつが噂の悪しきダンジョンマスターか!? 弱そうだな! さあ、聖女様をどこに隠した!」


彼は土足のまま、上がり框を越えようとした。


その瞬間。


「泥靴で上がらないでください(にこ)」


エプロン姿のセレナが、リビングから現れた。


「うわっ! 出た! 本当に聖女……え?」


ノアの動きが、空中でピタリと止まる。

彼が想像していたのは、鎖に繋がれ、涙を流す聖女の姿だったはずだ。

しかし目の前にいるのは、ほうじ茶の急須を持ち、割烹着を着た家庭的な美女である。


「あ、あの……聖女様、ですよね?」


「はい。ですが、ここは実家です。靴を揃えてから上がってください」


圧倒的な笑顔の圧力。

カメラ(水晶玉)が回っている手前、ノアは強気に出ようとした。


「い、いや! 俺は真実を暴きに……!」


「かりんとう、食べます?」


セレナが差し出した小皿には、ツヤツヤと光るかりんとうが乗っていた。

そして、彼女はノアに向かって、とどめの一言を放った。


「……おかえりなさい」


ふわりと笑うその顔は、慈愛と安心感の塊だった。


ノアの持っていた水晶玉が、カタカタと震え始める。

彼の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。


「……うっ……ひぐっ……」


「え?」


俺は唖然とした。

炎上狙いの突撃系配信者が、玄関先で突然泣き出したのだ。


「俺……毎日毎日、数字のために無理して……アンチに叩かれても笑って……」


ノアは靴を脱ぎ捨て、スリッパも履かずに上がり框にへたり込んだ。


「ここ、落ち着く……。実家みたいだ……」


彼はかりんとうを口に放り込みながら、子どものように声を上げて泣き始めた。

セレナは優しく彼の背中を撫でている。

「大変でしたね。よしよし」


水晶玉の向こう側では、とんでもない数のコメントが滝のように流れていた。


『は? ノアが泣いてる』

『聖女様エプロン姿!? 尊い!』

『監禁じゃなくて帰省じゃんwww』

『実家オーラやばすぎwww』


ノアの炎上狙いの配信は、完全に想定外の方向へと進んでいた。

切り抜き動画が拡散され、全国の視聴者に『聖女の実家』が晒されるのは、もう時間の問題だった。


俺は胃薬の残量を数えながら、静かに目を閉じた。

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