お花見 〈番外編〉
このお話から二年生編(新入生歓迎会)へとつながっていきます。
次回からの番外編は、本編最新話以降のお話になります。
時系列が分かりづらくてすみません。
季節は過ぎ、俺たちは無事に一年を終えることができた。
春休みはあまり長くないけれど、宿題がないのが嬉しいと、アイが部活の休憩中に言っていたのを思い出す。
そして部活はというと、新入生歓迎会でのステージの練習をつめていくところである。休み中の日程は、ほとんど部活で埋め尽くされている。三人で話し合って決めたことだ。
ただ、毎週日曜は部活が休みになっているため、俺はどこかのタイミングで、アイとカイトを遊びに誘おうと意気込んでいた。
部活に来るたびに、今日言おう今日言おうと思うのだが、いざ二人を目の前にすると、上手く言葉が出てこない。軽口はいくらでも言えるのに。
チャンスはあまりないのだ。早めのうちに誘わなくては。
そうして時は過ぎていき、気づけば土曜日に。
今日言わなくて、いつ言うんだ。
俺は覚悟を決め、部活終わりの二人に話しかけた。
「アイ、カイト」
俺の声に、アイが振り返る。黒髪が綺麗に翻り、大きな丸い瞳が俺の姿を捉えた。
カイトも、俺に視線を注いでいる。
緊張感が高まり、口が震える。
断られたらどうしよう。………いや、大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせ、俺は口を開くと、一息に言った。
「明日、お花見…行かない?」
どくどくと全身で鼓動が脈打っている。酸素が上手く回らずに、俺は軽く息切れしていた。かっこ悪い。
俺の提案を聞いて、アイとカイトは目を見合わせた。
そして次の瞬間、二人は思いっきり口角を上げ、俺を見つめてきた。
「へぇ、レンは僕とお花見に行きたいんだね」
カイトが意地悪く、そんな風に言ってくる。
「だ・れ・が、カイトと花見たいって言ったよ」
俺はきっぱりと言い返して、彼をきつく睨む。カイトのペースに飲まれてはいけない。
「ふ~ん、じゃあアイと花見たかったんだ」
俺の問いに、落ち込む様子も見せずにさらっと口にした言葉に、俺は顔が熱くなるのを感じた。
「はぁ!?」
思わず大きな声で叫んでしまう。
「も~レンってば、そんなに私とお花見行きたかったんだねぇ」
あーあ、アイまで乗っかってきてしまった。こうなるとダメだ。いくら何を言ったって、二人は聞きやしないのだから。
俺は大きくため息をついて、
「そうだよ!! 俺は二人とお花見したかったんだよ、悪いかよ! んで、行かねぇってことだよな、帰る!」
そう言い放ち、自分の荷物を持ち上げた。俺の顔が真っ赤になっているのは、言うまでもないだろう。
俺にこんな風に言われることは想定外だったらしい二人が口をぽかんと開けながら、俺が帰ろうとする様子を眺めていた。
「はっ……あ、レン待って! 行くって!」
我に返ったアイが、部室のドアから出ようとした俺の腕を、必死に掴んだ。
「明日だよね、もちろん空いてるよ! ねっ、カイくん」
アイは焦りながら、後ろにいるカイトに話しかける。
「あ、ああ、そうだね。行けるよ。お花見…いいよね」
カイトまで、俺の機嫌をとりもつように、そんなお世辞を並べた。
へえ。俺がこうすると、二人はこんな反応になるんだ。これは使えるかもしれない。
これをすると、俺にも大きなダメージが入ってしまうのが難点だが。
「あっそ」
すぐに機嫌を直すのも何だか恥ずかしくて、俺はしばらく不機嫌のまま、帰り道を歩いた。途中まで一緒だったアイとカイトは、そんな俺を必死に持ち上げていて、その様子が面白かった。
別に、どうしてもお花見に行きたかったわけではない。
アイとカイトと出かけられれば、場所なんてどこでもよかったんだ…本当は。
「レン~!」
翌日。待ち合わせ場所に向かうと、すでにアイとカイトがいた。
やっぱり、二人は今日も一緒か。少しだけモヤモヤした心を、すぐに切り替えた。今日はそういう気持ちで来たのではないのだから。
二人とともに、少し歩いたところにある、大きな運動公園に向かった。
目的地に到着すると、かなりの人で溢れていた。
主に子供連れの家族だ。芝生にレジャーシートを広げて、ご飯を食べたり、ボールを使って遊んだりしているのが見える。
ところどころに屋台もあって、人でにぎわっている。
そして公園の周りを囲むように植えられた、たくさんの桜の木。
俺の視界のほとんどがピンクで埋め尽くされる。
桜って、なんでこんなに綺麗なんだろう。
「綺麗~!」
アイも、俺の横で感嘆の声を漏らしていた。
入学式の日、桜が散る景色の中で見つけた彼女を思い出す。何度春が来ても、俺は一年前の景色を思い出すんだろう。
「さ、場所取りしようか」
カイトは颯爽とそう言うと、空いていそうなスペースに歩き出していった。
お花見に行くと言ったら、母がお弁当を作ってくれた。
アイとカイトも、それぞれお弁当を持参してきたようだ。
レジャーシートに座って、桜を見ながらお弁当を頬張る。
「あとでさ、屋台も見に行こ!」
「アイ、まだ食べるの?」
それはご飯を食べながら言うことだろうか。そう思いながらアイに聞く。
「何を売ってるのか見たいだけ! 美味しそうだったら買うかもしれないけどさぁ。何よ、人を食いしん坊みたいに言って」
アイは俺の言葉に、唇を尖らせた。拗ねているようだ。
「まあまあまあまあ」
カイトは、何かフォローを入れるのかと思いきや特に何も言わず、俺と言い合いになりそうなアイを穏やかな声で落ち着かせるだけだった。
カイトの態度に、アイはさらに機嫌を損ね、プイっとそっぽを向いてお弁当の続きを食べ始めた。
こういう時のアイは、そっとしておくのが一番いい。何も本気で怒っているのではないのだから。
少しそっとしておけば、そのうち彼女から話しかけてくるだろう。
その後、案の定すぐに機嫌を直した彼女は、うきうきの様子で屋台を見て回った。
俺とカイトはさながら、自由奔放なお姫様を護衛する騎士のようだ。
そのお姫様は、屋台のメニューを見ただけで満足したようで、結局何も買わずに、俺たちは帰ることにした。
明日も部活はあるし、あんまり名残惜しくなくてよかった。
夕焼けに照らされながら、三人で帰り道を歩く。
アイが少し前を歩いていて、その一歩一歩が軽く見える。楽しかったという雰囲気が俺にも伝わってきた。
「レン! 誘ってくれてありがとうね、楽しかった!!」
アイがこちらを振り向き、笑顔で言った。夕日が彼女の顔を照らし、額の縁がオレンジ色に染まっている。
「僕も、楽しかった」
俺の隣を歩いていたカイトも、そう言って微笑んだ。
よかった、二人とも楽しめたみたいだ。とりあえず一安心。
一応、今日の遊びを提案したのは俺だったから、二人がちゃんと楽しめたか心配だったのだ。
「明日から、また部活頑張ろうね!」
「どんな一年が入ってくるのかな」
アイとカイトの声を聞きながら、俺は夕焼け空を見つめ、ゆっくりと歩いた。
「楽しみ…だな」
俺が空から視線を戻すと、いつの間にかカイトもアイの隣に立っていて、俺を迎え入れる準備を済ませたみたいに笑った。
「だね!」
「うん」
二人が頷いた。俺は少し駆け足で、二人の元へ飛び込んだ。
どんな一年生が入ってくるのだろう。俺にも部活の後輩、というものができるのだろうか。
俺の胸がじんわりと暖かくなる。今、俺たちを照らしている夕日のオレンジ色のような…暖かい気持ち。
一年前の今日、俺は高校で部活に入り、こんな風に充実した日々を送れるなんて、これっぽっちも想像していなかった。
もう不安な気持ちはない。アイとカイトがいれば、どこまでも。




