ツインズ。
フワリと、少し肌寒い気がして六花は目が覚めた。
昨夜は窓を閉めたはずなのにと身を起こせば、テラスに置いてある椅子に悠人がゆったりと座っている背中が見える。
絨毯が敷いてあるこの部屋で、足音を消すのは容易でありそれでも静かに忍んで近寄れば気配を感じたのか、ゆっくりと振り返った。
「おはよ」
「おはよう」
「何していたの…?」
おだやかな顔で、どこかを見ている。
「朝日をね見てた、目が覚めたから。明日の夕方帰るから、見れる時に見ておこうと思って。」
そうなの…と呟き、まだ少し肌寒い朝風邪を引いてはいけないと、部屋に促された。
朝食時。
「蒼太は仕事ちゃんとしてるか?」
静かに食事をしている最中、静かな悠人の一言で蒼太は『ぐぎぎぎ』と、首を動かし曖昧に笑う。
何事も完璧に近い事を要求する悠人に対し、蒼太はフランクに仕事をしてしまう傾向が有る。それは全員で生活していた時から変わりなく、薄々そうであろうと予測しての事。
「余裕はないけど…。」
「昨日、お前の秘書が肩を落として歩いていたけど…?ダウェルの家を生かすも殺すも、お前の腕次第だ頑張れよ」
ニヤと笑いお茶を飲む姿は、どことなく追い詰めているように見えて仕方がない。
「悠人も意地悪言わないの、ちょっと蒼太の相談に乗ってあげて?私には相談しにくいだろうし、その間六花ちゃんは私と遊びましょ?城の一番絶景を見せてあげる♪」
キャロラインの言葉に無条件で頷く六花を見て、2時間だけだと頷いた。
蒼太の仕事部屋は重厚なデスクと、その前に置いているソファセット壁2面には書籍がぎっしり詰まっていて、そこは社長の部屋と言うより何か研究者の部屋に近い。
ソファに座りユルリと足を組んで、しかも頬杖まで突いている姿はどこか面白そうに見守っているようにも感じる。
「な…なんだよ、ガン見かよ」
「見てる、仕事しろ。」
ブツブツ言いながら書類をやっつけて行く姿を、じっと観察して数分もするとソファから「ふふ」と笑い声が聞こえ蒼太は顔を上げる。
「夏休みの宿題しているみたいだ」
その言葉に、テンションが若干さがるがいつもの事だと脳内に言い聞かせ、書類をひたすらやっつける。何枚か時間がかかりそうな書類があり、横に数枚避けて行くと横から手が伸びてその書類を奪う。
「…お前の苦手そうな、ゴチャゴチャした書類だな?」
「まぁな、この手は苦手。」
真意が読みとれない遠まわしな書類、素直に行けば会議で上げ足を取られそうな気配がする。
「この傾向の書類は、直接会って決めるしかないな…。秘書と時間をすりあわして、苦手な人全員で対談したらどうだ?」
「それは前にやったけど、皆予定が決まっていて…」
悠人がコンコンと、指先で机を叩く。
「だ・か・ら、お前が会いたいって言うんじゃなくて、来いって命令するの。誰が会社の尻ぬぐいしているんだ?蒼太、お前だろう?」
「仕事中は、もっと我を出してみろよ?秘書も補佐もいるんだろう?どうせ、遠慮して何も言ってないのは分かっている、もっと頼れ!相談したらどうなんだ?」
書棚の中は、殆どが経営の本だ。蒼太は自分が向いていないのかと、自分で考え込んでいるのだろう。気を使って周りに言えていないはずだ。腹の中からずっと一緒だった、その悠人が蒼太の雰囲気でそれを感じる。
「家を支える柱は、一本じゃ駄目なんだよ。皆沢山の柱で、支えあうんだ…お前が頑張っているのは、家族が知っているから安心しろ?」
「兄貴…、和奈城の管理こっちでしろよー。」
クシャリと笑って、蒼太の髪をかき混ぜる。
「馬鹿言うな、こっちだってややこしい親戚纏めて行くのに手一杯だよ。あの日決めただろう?お前は英国、僕は日本って。」
ポンポンと、背中を叩く。
「俺も兄貴と一緒に、親父から帝王学とか経済学のイロハ聞いてりゃ良かった。」
「馬鹿言え、滅茶苦茶プレッシャーだったんだぞ?無理はするな、いざとなれば規模縮小でも爵位返上でもいいじゃないか。」
デスクの端に腰かけ、イイコイイコと頭を撫でる。
「双子なのに、俺全然兄貴に勝てない!」
「いいんだよ、蒼太には蒼太の良さがあってそれは僕は持っていないから。」
じゃあな…と、手を軽く上げ部屋を出て行く悠人が、振り返る。
「つらかったら、一度こっちに逃げて来い。充電したら、また英国に戻ればいい…お前の居場所はこの家だからな?」
「分かった」
ヒラヒラと手を振り、部屋を出て行った。
「うっし!やるか!」
ダウェルグループの最高責任者候補として、プレッシャーに負けるものかと頬を叩き改めて書類に目を向けた。
この双子、あんまり2人で会話って無かったな…って。
蒼太は17歳でいきなり、こちらの方に引っ越しこの職に就いたので。
伯父さんが逃走しなければ、日本で気楽な次男坊だったのに哀れなヤツ。




