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櫻の樹の下で  作者: 赤司 恭
櫻の樹の下で、君と出会った。
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サイキック。

眼下に広がるは、広大な緑地帯。その中に点在する家々は遠くになる程密集している、恐らく昨日行った町だろう。雨が近いのか、風も強まり雨雲が近くまで来ている。


「どう?六花ちゃん?」


「---凄いです、城のてっぺんちょってこんなに綺麗な景色なんですねぇ?」


キャロラインの連れて来た場所は、ダウェル家の城の最上階。とんがり屋根に出来た小さなバルコニーがあり、堅牢な扉を2人掛かりで押しあけて入った。


周りには階下の屋根が見え、少し離れた場所に塔がある。


「下見て…広いでしょ?」


凄いと呟いて、日本ではなかなか見る事のない光景に釘付けな六花。その様子を、目を細めて見つめる。


「ありがとう、うちの息子を好いてくれて。」


風で乱れる髪を押え、六花は微笑んで静かに首を振る。


「私には勿体ない位です」


「あの子は、子供の頃から死んだ主人が後継ぎにする為に、色んな事を叩きこんできたの。だから、蒼太のように伸び伸びとした子供時代が無いの。きっと…寂しかったと思うわ。自由な時間なんて、寝る時間だけだったもの。」


「厳しかったんですね…。」


「ええ、主人がハーフで和奈城を継いだ時は、分家から相当やられたらしいの…嫌がらせをね。悠人は見た目完全に異人でしょう?そうなると、家を継ぐ時に主人以上に嫌がられや妨害を受ける…そう思って、かなり厳しく勉強させたわ。」


子供に帝王学や経済学教えても、理解できないでしょうけどね…と、キャロラインは笑う。


「どうか…お願いね、あの子を愛して上げて頂戴ね。私達が、あげれなかった分まで。都合の良いお願いで、ごめんなさい。」


「キャロラインさん…。」


キャロラインの手を、六花はぎゅっと握ってただ静かに話を聞いていた。

静かに、風の音だけがひたすら聞こえるのみ。ポツポツと、大粒の雨が降って来て急に温度も下がり始める。


「寒くなってきたわね、そろそろ戻りましょう?イギリスはね、一日の中に四季があるって言われるくらい、天気がコロコロ変わるのよ?やんなっちゃうわ。」


「お天気続いていたのは、珍しかったんですね?ではでは食堂で、お茶にしませんか?」


来た時と同じように2人掛かりで扉を引くが風圧でなかなか開かない。


「あ…開いた、六花ちゃん?どうしたの?」


扉に半身を入れて、踏ん張っているキャロラインの後ろで、六花のヘアアクセサリーがカンと音を立てて落ちる。


悠人に買ってもらった、花柄の髪飾りは六花のお気に入りだ。転がって行くのを小走りでバルコニーに走り、拾って立ち上がると突風が吹く。


「六花ちゃん―――きゃーーーーーッ」


風圧に負け、キャロラインは室内に押し込まれるように入り、堅牢な扉はドオォォォンと言う轟音と共に閉まり何か異音がバキンと聞こえたのである。


「キャロランインさん!」


駆け寄ってドアノブを握り開けようとするが、ガチャガチャと音がするだけ。引いても押してもびくともしない。――――閉じ込められた?サッと六花の背筋が寒くなる。


バツバツと、激しい音を立てて雨が降り始めた。


「うそぉ」









珍しく執事頭が数人の使用人とレオンを従えて、廊下を小走りに走っていた。


「どうした?」


「あぁ悠人様、大変でございますよ。奥様と六花お嬢様が、屋上のカギが壊れて立ち往生されているらしく、今から救出に行く次第であります。力のあるレオン様も助太刀してくださるので。」


「あー、ここ古いからボロになったんだろうね。」


歩きながら話して、急いで階段を登りきる。


「奥様ー、参りましたので今から扉を破壊します。お手数ですが、扉から少し離れてくださいませ!」


「鍵が、鍵を差したのに開かないの!」


半ばパニックになっているキャロラインを、執事が少し離れた場所に避難させ騒ぎを聞きつけた蒼太と美桜・アーネストも見守っている。



「六花ちゃん、大丈夫?直ぐに開けるから!!」


扉の隙間からそう叫んだ美桜、使用人が工具でこじ開けようとするが堅牢な扉はびくともしない。

そうなればと、片方の扉と石壁を繋ぐ金具を切ろうとするが、今度は工具が入らない。ツルハシのようなもので、ガツガツ削ろうとするが嫌に丈夫な石壁、びくともしない。



限りなくピッチリと出来た扉自体が、分厚い木材を加工して鉄か何かで補強してある。


「多分中の鍵を開けるに必要な金具が、折れたかどうかしたんだろうな。変な音がしたって、おばさんも言ってるし」


アーネストの独り言のような言葉に、何人かが頷く。


「なんだ嫌に丈夫に作ってあるじゃないか、壊れやしない。」


策が無いのか、執事の一人がボソリと漏らす。


「昔この辺りで戦いがあった時、攻め入れないように頑丈に作ったと聞いています。城が落とされない様にだと。」


執事頭の言葉に頷く、しかし頑丈にしすぎだろうと苦笑してしまうが。

キャロラインが執事達に通報してから、早くも一時間以上は過ぎている。壁の窓からは、バルコニーは見えないがかなり雨脚は強く、モヤが掛かるほどだ。



気温も下がり、半そででは肌寒い…この気温で外で雨に打たれている六花を想像してしまう。


「ここにいる人間は、口が堅いか?」


「皆何代にも渡って、お仕えしております者ばかりです。悠人様?」


「美桜、何でもいいクリームを大量に持ってきてくれ。他の者はタオルを用意。急げ!」


何か無いかと、近くを見渡すと階段の踊り場には花が活けてあり、そこから花だけを残して鍵の辺りを重点的に水をぶちまける。そうこうしているうちに、美桜が大きなハンドクリームの容器を2つ持ってきた。


「アーネスト、この中身僕の手に出して!レオン僕の体を支えてくれ。蒼太は、美桜を避難させて。」


アーネストは遠慮なしに1つを逆さにして、悠人の両手に全部を出す。


「六花ちゃーん、ドアから離れて!」


何かを察知したアーネストが、壁と扉の僅かな隙間から叫ぶ。


「蒼太、小言は聞かないからな!」


ペロリと唇を舐めると、深呼吸して何度かやったアレをイメージする。両手を扉の濡らした部分に当てると、神経を集中させた。



ドンッ


「うおッ」


レオンが衝撃でよろける、チッと悠人から舌打ちが聞こえハンドクリームの中身ををもう一つ両手に載せて再度かまえた。


ドンッドンッドンッ


「あっつーッ」

両手に広がる激痛と、耐えがたい熱さに思わず悠人は顔をしかめた。

爆音が響き、一瞬周りにモヤが広がりキナ臭い匂いと、得体の知れない嫌な匂いが充満。ガンと蹴りを入れて、直ぐに悠人が飛び出した。


豪雨となっているバルコニーの、手すりにしがみついて雨に打たれる六花を見つける。


「なに?今の音?」


「怪我は?なんともない?大丈夫か?」


後ろからタオルを持った執事が走って来て、何枚もでくるむ。

傘を持ってきた誰かが六花の上でさしてやり、立たせ部屋に誘導し皆も移動しようとする…が。


「悠人さまッ!誰か医者を呼んで!後、救急箱を!」


執事の目線で、悠人は両手を見て苦笑する。


「熱かったよ、大した事ない。」


濡れたシャツを脱いで、六花とキャロラインや美桜が驚かないように両手を手首から隠す。

立っていた場所には、雨でにじむ血だまり。






執事頭に誘導され、2人とは別室に行く。既に救急箱も用意されて後から来た医者に診察されると、眉をひそめる酷い切り傷と火傷だ。


親指の付け根や、手のひらにマメが出来やすい部分は、扉にかなり密着していたらしく火傷も酷かった。


「無茶をなさいますな…。」


消毒に顔を歪める悠人を見て、更に消毒をする辺り執事頭も怒っているのだろう。


「痛い…染みるって」


「染みるようしているのでございますよ、お体をご自愛くださいませ!」


ガチャと勢いよく扉が開かれ、キャロラインと六花が転がるように走って近寄ってくる。


「悠人!聞いたわよ、無茶しないの!!」


「体は大丈夫?」


手の平を見て、2人共絶句する。


「この位だけ、大丈夫。直ぐに治るよ?」



カギは嫌に頑丈だったよと言って、傍にあった救急箱を片手に部屋を出て行ってしまう。


「悠人様は六花様が、外に取り残されて大変心配だったのでございますよ。」


執事頭の言葉に「そうね…」と、キャロラインは項垂れて。



廊下を歩きながらフワフワとした感覚は、サイキックを使いすぎた体の警告だと悠人は体で理解していた。

自室までもう少し、ゆっくりと確実に歩き部屋に戻ってベットに倒れ込む。

ジンジンする手に巻いた包帯も煩わしい。乱暴に外して、床に投げ捨てた。

雷坊やデス。

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