かけっこ。
「お馬ちゃん♪」
いつもより1時間も早く起き、悠人の胸に額をグリグリして起こし日焼け止め成分の入った化粧をしてる――六花。
「ご機嫌さんですね、日焼け止め胸とか首とか塗っておかないと焼けるよ。あと、ジーンズにした方がいいね、またがるから。」
コクコク頷き、昨夜美桜から借りたサンバイザーを装着。
ワンショルダーのカバンには、細々したのを入れて部屋を出れば玄関に行くに従い、六花のテンショも上がる。
「1・2・3・4…あれ?蒼太は?」
「サイン忘れの書類があるから、少し遅れるって。」
美桜が苦笑する、仕事のスケジュールを無理やり空けて午前中だけでも馬に乗ると、昨夜鼻息も荒く参加表明していたのだ。
「ま…いいっか、手入れ手入れ」
広大な庭の裏手には、厩舎があり住人が乗るのと執事も乗るらしく、8頭の馬が暮らしているらしい。
「ちなみに、ばーさまは現役で乗ってるそうだ…踏み台必須だろうけどね。」
落ちないのか…?レオンもアーネストも一瞬心配したが、あの女性ならやりかねないと良心を捻じ伏せた。
ブラッシングして、足の状態を見て鞍を乗せる。顔に付ける頭絡は、悠人に言われて六花がおっかなびっくり装着。肩のところに、馬の顔があるのだ。
「噛まないから大丈夫」
顔を擦りつけて、悠人のポケットを鼻先でさぐって何かを探している様子。
「こうやって、手のひらにニンジン乗せて食べさせる…そうそう、間違っても摘まんで食べさせない事。指も食べられるからね。」
六花の頭のサンバイザーを外し、乗馬用のヘルメットをかぶせてからサンバイザーを付ける。
「落とす事はしないけど、念の為装着。馬に乗ったら大きな声で叫ばない事。」
うんうんと頷く、そうしている間にも後から来た蒼太も合流して準備万端だ。
どうやって乗るのか見ると、皆鞍に手を突いてヒョイと上半身を乗りあげてそのまま足を上げて乗る。
「六花、こっちに足掛けて…手貸して?」
アブミと言う足を乗せるとこに、左足を乗せて後は悠人に引き上げて貰って、鞍の前に座る。
「足がプラプラして不安定だよー」
上半身を捻って悠人を見れば、鞍の前半分にフリースの敷物を分厚くして乗せ、そこに六花を抱き上げて後ろに移動。お尻も痛くなくて、大丈夫そうだと確認。
後ろから腕が出てきて、丁度だっこされているような格好だ。
「これで大丈夫…と。」
レオンとアーネストが先頭で、手を上げたと同時に軽く走りだし徐々にスピードがあがる。
ガクガクと最初は衝撃があったが、乗り方を教わると衝撃を逃す方法も分かって六花は余裕が出てきて、周囲を観察して楽しむ。
1時間ほど走って、小さな町に到着しピニール製の折りたたみバケツに水を汲んで飲ませると、悠人がバケツを指差すので覗き込む。
チューチュー…。
「チューチュー言ってる!」
「もう一回バケツの下から、馬の顔みてごらん?」
少しバケツをずらすと、馬は口全体で水を飲んでいるのではなく唇を尖らせて飲んでいるのだ。
「かーわーいー」
飲むのに飽きたらしく、水をブクブク吹いて遊び始めたので水やりタイムは終了。
公園の隅に繋いで、カフェへと入った。昼前で空いていたので、テラスに座ったが蒼太が店主や店員に囲まれて帰ってこない。
一応オーダーは通したが、両手を握られブンブン振りまわされてるのを確認するあたり、歓迎されているのだろう。
「大変だな、公爵様は」
「ばかやろ―、助けに来いよぉ。あの店主話が長いんだからさ、もう終るって時に最初に戻るんだもんな!イイ人なんだけど。」
チラチラと悠人を見てヒソヒソ、鏡のようにそっくりな2人だから店主も双子だと気づいているようだが、蒼太が釘を刺したらしく近寄ってはこない。
「六花ちゃんお尻は大丈夫?痛くない?」
「痛くないです!悠人が、敷物入れてくれたから大丈夫♪」
「ほぉぉ~」
ニヤニヤするレオンに、ガンを飛ばし黙々と食事する悠人の耳が少し赤い。
「美桜ちゃんのお馬さんは、名前何ていうの?」
「あたしのはユキちゃん、蒼太のはペーターでお兄ちゃんのはオンジ。アーネストがピッチーでレオンはハイジだよ?ちなみに、皆オスです。」
メス…牝馬を入れると、馬の落ち着きが無くなってしまうから駄目なんだよねと説明を受ける。
「落ち着かなくなるの?」
「そうよ?男子校の中に、女の子入れるようなものだもの。」
ふ~んと、デザートを食べる六花にそっと耳へささやく悠人『発情するからね』に、顔を真っ赤にさせてしまう。
素直に顔に出る六花は、からかい甲斐があるらしく皆に弄られている。あのローズも、六花には話しかけるようになった程だ。
しばらく休憩して、帰りは違うコースを走り城に戻ったのは14時。
途中でレースを思いつき、蒼太は念のために携帯で執事に玄関周りの車と人気払いをしてスタート。
後半盛り返したレオンが1着となり、帰国してからケーキバイキングに連れて行く事で決着が付いた。
「レース怖かった~、凄いね!早いね!」
爆走するスピードに落ちないよう、ワンショルダーのカバンのベルトを伸ばし悠人と固定しての参戦。
足がカクカクしてると、笑いながら今日の出来事を一生懸命執事頭に喋るのだ。
到着時執事の集団やら、メイド達が面白そうに玄関のポーチに並び、かっ飛ばす蒼太達を応援していたのだ。騒ぎを聞きつけ、部屋の窓から見ていたローズに『危険な事はするな!』と、ガッチリ叱られたのだが。
その後お茶の時間だったのだが、お茶もソコソコに六花を連れて城内をズンズン進む。
「どこいくの?」
「秘密」
にこやかに、迷いなく歩く。一度外に出る回廊を歩いて、階段を降りて進む城内にいるのだが、方向感覚も一切分からないが突如吹き抜けがあり天井の高い一部屋に辿りついた。
「西の塔だよ、ここのステンドグラスが凄く綺麗でね。」
西日を受けて、光が全体に受けるように設計されたのだろう、動物や人物の大きなステンドグラスの中には花や人もある。
「あのバラと一緒の男女が、じーさまとばーさま。その横の1枚は、父さんと母さん。 あっちにあるのは、僕と蒼太と美桜らしいよ。」
「凄い…。」
ステンドグラス特有のタッチで人物が描かれていた、左右の目の色が違う人物は勿論悠人だ。
「今度、これを一枚増やすらしい。窓は幾つもあるからね。」
「そーなんだぁ?」
「ばーさまがね、僕と六花のステンド入れるって言ってたよ。」
ポカンとする顔に、悠人が笑う。
「直接言わないばーさまで悪いけど、六花には悪かったって言ってた。やり過ぎたって。」
趣味の悪い冗談だと言う事にしようと、バフと悠人に抱きつく。
孫がいきなり、婚約者を連れて来たのだ、何かしたくなるのかも知れないが次回からは、ほどほどにして欲しいと思う六花だった。
とある人から聞いた話、馬は一人乗り専用だとか…ま、いっか。
水のみに飽きたら遊ぶのはホント、吸いこんで吐き出してと繰り返したり…イロイロです。ポカリも飲むぞよ。




