ばらのちょうせんじょう ③
朝食の時に全員が揃い、ダウェル家のドンと言われる祖母が座っていた。
大きな孫がいるようには全然見えない、プラチナブロンドの小柄な女性だ。目はブルー。
「悠人、その横の娘は」
英語で言われているので、六花はさっぱり何か分からず悠人が名前を言ってる辺りで自分だと分かって、祖母に会釈した。フィと目線を逸らされ、キャロラインと会話をしてしまう。無視。
「六花、気にしないのよ。いつもの事なんだから」
小さな声で美桜が声を掛けてきて、頷くが初対面で露骨な無視とはいただけない。
しかも昨日から悠人が英国に来ているのを嗅ぎつけた人が、キャロラインだけでなく祖母にもSPR(英国神霊協会)に来るよう打診があったとかで、祖母に言われ渋々という感じで準備を始める。
「車で行くの?」
やっかいな所なので、留守番をお願いされた六花はモールテンを抱きしめて、椅子で足をプラプラさせ着替える悠人の観察。
ジーンズ+ジャケット+革靴。
「ロンドンは混むし、駐車場どうかわからないから電車で行くよ。バースまでは、アーネスト達が車使うらしいから、ここの車で送ってもらう。」
グリグリと頭を撫でられ、ぎゅーっと抱きつき離れると笑って離れる。
「いってらっしゃい!お留守の間に、あちこち探検してみるね?」
「バトラー達は、日本語使えるから困ったら探してみて?」
昨日見た燕尾服の集団は、執事らしくこうやって玄関に移動してる最中でも1人見かけた。
ポツンと玄関で立ちつくし、どうしようかなと思案しているとメイドが近づいてきた。
「お嬢様、大奥様がお茶をご一緒しませんかと」
「はい、喜んで伺います」
ニコーと笑って、朝の無視は気のせいだろうとメイドの後ろを付いていく、城の奥上階に案内されて大きな扉を開けると室内には、見た事のない同じ年頃のような女性が何人かいた。
「お入り」
少しかすれた女性の声が聞こえ、それが祖母の声だと初めて分かる。日本語が喋れるようだ。
「お招きありがとうございます」
ペコとお辞儀をして、勧められた席に就く。
「悠人の祖母の、ローズです。よろしく、キャロラインに聞いたけども、悠人と交際しているとか?」
「はい、お付き合いさせて頂いています。」
良い香りの紅茶をゆっくり飲んで、勧められる茶菓子を食べる…おいしい!
「この娘達は、悠人の婚約者達。家柄も学歴も、容姿も…悠人に釣りあう人間ばかりを集めたのですよ。」
日本語が分かるのか、3人並んだ綺麗な女性達が目礼をする。
し…んと、音は茶器があたる音だけ。
「悠人も、日本を離れるように言ってるんですけどね。あちらのお宅を残すって言って聞かないの、いいかげん離れて私の持ってる爵位の一つを継いで欲しいの。あなたから、そう言ってくれないかしら?」
「…え?」
顔を上げると、ローズが真正面から六花を見つめる。
「あなた、悠人の恋人なんでしょう?なら、こちらに来るように説得してくださらない?そうすれば、悠人はこの子達の中から1人選んで結婚できるの。―――ね?
悪い話じゃないわ?ちゃぁんと、お礼もするしあなたにふさわしい殿方を、日本にご用意しますからお互い様でしょう?」
「困ります、私は悠人さんときちんとお付き合いしていますし。先日、悠人さんから婚約指輪も頂きました。ですから、このお話を受けるわけにはいきません。」
左手には、贈られた2本組みの桜モチーフの指輪が、キラリと光っている。
ローズの連れて来た女性達も、予想外の事らしくヒソヒソと何事か言っているが言葉が分からない。
「本当に悠人から、贈ったの?指輪。」
「はい、間違いありません。今から電話して確認して貰ってもかまいません。」
指輪を手でギュッと握り、ローズに力強く向き合う。守ってくれる悠人は、今ロンドンに向かっている自分で対処しなければ…と。
「そう…、なら簡単ね。あなた、悠人と別れて頂戴ね?御苦労さま、お部屋に戻っていいわよ。メアリ、お客様のお帰りよ。」
「え?あ…あの、別れませんから!」
迎えに来た時と同じメイドに、やんわりと立つように促され部屋の前の扉が静かに閉まった。
帰り道が分からなかったので、近くを歩いているバトラーを捕まえ部屋まで送って貰って部屋に入り六花は体調が悪いと昼食も夕食も断った。
悠人が戻ったのは、夜20時になった頃。
車の中で執事頭から、六花が昼から食事を断って寝込んでいると聞いていたのだ。
「かぁさん、六花食べてない?」
出迎えたキャロラインが頷く。
「私もお部屋まで行ったのだけど、しんどそうだったの。お熱は無かったから、お医者様は呼んでいないのだけどね」
速足で部屋に戻る悠人を見送り、近くのメイドに軽食を部屋に届けるよう頼んだ。
ベットの端が、軋んだ。
「六花ただいま、具合が悪いって聞いたけど?」
ふとんからはみ出る髪の毛を弄んで、根気よく返事を待つ。
モゾモゾしているから、起きてはいるようだけど顔を出したくない理由でもあるのかと考える。
「悠人様、軽食をお運びしました。お部屋に入れましょうか?」
ドアの外でメイドが声を掛け、ありがとうと受け取る。
「お嬢様のお加減は、いかがでしょうか?やはりお医者様を?」
「うん大丈夫、僕が見るから…ありがとう。」
名残惜しそうに部屋を去るメイドは、確か六花がカタコトの英語で話しかけていた人間だ。
「六花おなかすかない?サンドウィッチ出来てるよ?スープが冷めないうちに、布団から出ておいで」
勢いよくベリッと引き剥がすと、丸くなった六花が慌てる。
「やーっ」
「やーじゃないの、はいスリッパはいて。立つ!ごはん食べる!」
椅子に座らせて、モソモソ食べる姿を見るが目は腫れてるわメイクガタガタで、一目で何かあったかと分かり自然に原因も分かってしまう…。
「ばーさんか…。」
びくと震えたので、おおかた当たりだなと悠人も検討が付く。
「や…あたしの問題なの。だから、ヴィンセントは待ってて?」
すくっと立ち上がって顔を洗いメイクをもう一度して、身づくろいをした六花。
「ヴィンセント、お願い!おばあさまの所に連れて行って?」
昼間メイドに連れられて行った道を、悠人と一緒に歩く。夜の廊下には、左右両方の壁に明かりが付いており明るい。見覚えのある扉の前で、行っておいで?とドアを開けてもらう。
ローズは既に寝巻になっていたが、ガウンを着て昼間と同じようにお茶を用意してくれていた。
昼間と違うのは、若い女性が居ない事。柔らかい色の室内灯の下、同じように勧められて六花は席に就いた。
「昼間のお返事…かしら?」
「はい、一生懸命考えました。」
ローズを見ると、ニッコリ微笑まれる。
「お金は、どの位頂けるんですか?…」
その言葉に、ローズの口角が上がった。
やんわりゴリ押し。




