ばらのちょうせんじょう ②
数日後…。
留守を要に任せ、悠人達は機上の人となる。
長時間のフライトと経て、一度飛行機を乗り継いで悠人の祖母と母そして、双子の弟蒼太と妹の美桜が住むサウスサマセットに到着した。
レンタカーで移動中六花は、祖母と母の事を教えられて一番驚いたのが「侯爵」だと言う事。
TVやマンガでしか聞いた事のない、イギリス貴族。その家督を継いでいるのが、悠人の母キャロラインである。
「ってことは、蒼太君が次の侯爵?」
「まー順序良く行けば…ですがね、侯爵っても会社興しているので社長ってトコでしょうか?」
国際免許をちゃんと持っている男性陣は、日本から出ても運転には不自由しない様子。
「たーだ、あのばーちゃんがツワモノ過ぎるっての忘れるなよ。」
アーネストの言葉に、レオンも頷く。
「女性で侯爵やってるんだ、しかも昔って今より色々厳しそうだしな。なんだかんだ、俺達遊びに行っても説教の3つ4つあるからさ。」
大分不安感を感じながらも、六花はダウェル家の到着を心待ちにしていた。窓から見える景色が、のどかで緑が綺麗だ。
「ね?あとどの位で到着するの?」
運転席の悠人を見れば、意味ありげな顔で見返される。
「実は先ほどから、敷地の中には入ってるんだけどねー。あと20分くらいかな?」
「もう?もう敷地なの?だって、ずっと同じ景色だよ?山とか丘とか、川とかあったけどぉ?」
「うん、それ敷地だから。ざっくり庭。」
ひぇぇぇぇ~~と驚き、窓に張りついて先を見れば遠くに何か見えそうにでもない。
庭と言われた部分は、昔では領地だった分らしく六花はそれでもアレだよと、驚きを隠せない。
マリーアントワネットみたいなので生活しているのか?等、妄想100%広がりまくりである。
「はい、到着でっす」
「…城」
車を止めると、玄関から燕尾服の集団が走ってくる。
悠人が軽く手を挙げるのを見ると、家の人なのだろう。若いのから年寄りまで揃って、慌てふためいているのが分かる。レオンがこっそり、執事だと教える。
「悠人様!空港で迎えが待っておりますのに!」
「え?居た?居たっけ?」
驚いたその言葉に、レオンが苦笑する。
「お前おもいっきり無視してたの知らなかった?こっちの家の人が、サインボード持ってブンブン手ぇ振ってたぞ」
後で謝ろうとブツブツ言う悠人に、その年寄り…執事頭らしい人が城の中へと導いた。
「ヴィンセント、城なんだけど!やっぱり、ポヨーンでポワーンな人いるんじゃないの?」
「いないいない、すぐ分かるよ。」
六花の期待とは裏腹に、応接室で待っていたのは蒼太と美桜と金髪女性。
「いらっしゃーい!待ってたよ」
美桜が六花に飛びつき、はしたないわよと女性に窘められ首をすくめる。
「レオン、アーニーいらっしゃい。あなたが子供達から聞いてる、六花ちゃんね?初めまして母のキャロラインです。」
光るような金髪を綺麗に巻いて、胸下辺りで揺れている。
ニコニコと笑う笑顔は、悠人によく似ていた。
「初めまして、斎藤六花です。今日は押しかけてすいません。」
ペコリと挨拶をすると、アラアラと笑われる。
「いーのよ、ウチは何かと人がいるし。1人や3人増えたって構いやしないわ。休暇中の宿だと思って、悠人とゆっくりしてちょうだいな? 悠人もこんな可愛いお嬢さん捕まえて!六花ちゃん、後で一杯おしゃべりしましょうね?」
仕事が少しあるからと、美桜とキャロラインは部屋を出て行き、丸テーブルに着いてこの辺りの観光名所などの相談をしたり、食事の時間や細々とした説明を受ける。
蒼太も仕事を少しやってくると席を外し、自転車空輸組は近くの洞窟に探検に行ってしまう。
「チェダーチーズの工房が、近くにあるみたいだから明日行ってみようか?とりあえず、今は食堂と部屋の道を覚えて欲しいな?」
キュと手を握り、家の中なのに綺麗な石畳の床を歩いて昔悠人が使っていた部屋に向かう。
細かい彫の入ったドアを開けると、広い室内。テラス窓は、天井から床までの大きなものが入っていて部屋の片隅には鏡台がチョコンとおいてあった。
「わーーーー、すごーい!外の景色も綺麗だね!迷路もあるんだ…。」
振りむいてベットサイドにある、アンティーク調…いや実際に使ってるうちにアンティークなのだろう。猫足の椅子には、大きなテディベアが座っていた、手入れをきちんとしているらしく汚れや傷みも全かった。
「これ?ひょっとして、一緒に誘拐された熊ちゃん?」
「なーつかしいなぁ、そうだよこのテディベア Mr.モールテンだよ」
1m位ある熊は、薄茶色クリクリとした目が愛らしく、タキシードを着ているのが珍しい。
フワフワとテラスから庭を珍しげに見ている六花に、ゆっくりと歩いて行く。
「あの迷路は、凄く難しくてね。子供の頃に何度か遭難した。」
「私も遊んでみたーい」
「それじゃ、行こうか?」
行こうと六花が振り返ると、小さなモノがあった。
ピコ。
立ってる…熊。
「モールテンが立ってるぅ、可愛い!」
「モールテンご挨拶しなきゃね」
礼儀正しく、右足を後ろに引き上半身を倒して紳士の礼をするのだが、三頭身ではコミカル。
足に何か入っているのか、歩くたびにピコピコと音が聞こえるのが更に可愛くて、膝を突いて六花はニコニコ笑う。
「ヴィンセント凄いね~、疲れたら止めてね?」
「大丈夫、この軽さならね。」
2人の先にモールテン(熊)が歩き、その後ろをゆったりと歩いて付いていく。途中メイドがそのモールテンを見て、悲鳴を上げるものいたがロボットだと思って手を振ったりしている。
幾つか角を曲がると、先程会ったキャロラインだ。モールテンを見て目を見開き、屈んで頭をナデナデ。
「悠人あんまり頑張って、倒れないようにね?」
「はいはい、誘拐されないようにしておきますから。」
昔の話を引っ張り出し、流石にキャロラインも苦笑する。
「今のメイドは、ちゃんと教育しているから大丈夫よ♪」
モールテンと手を繋ぐ六花を見て、目を細める悠人を暖かく見送る母であった。
夕食時悠人の横で、ナイフとフォークのチラ見をしながら食べる六花。向かいには蒼太と美桜、その横にはアーネストとレオンも着席して食事していた。
「兄貴、ちょっと聞いていい?今日熊が歩いてるって、メイドが騒いでいたけど知ってる?」
熊?と、手を休めて蒼太を見て首をかしげる。
「さぁ?熊は見てないな…ね?六花?」
「う…うん、見てないわー」
何事か理解してあえて質問である。
「Mr.モールテンなら、庭の迷路で遊んでいたわよ~」
のほほーんと、キャロラインが茶々を入れて笑う。
「だからそれだから!兄貴ぃ、無茶すんなよー倒れるぞー!」
眉を八の字にして、情けなさそうに蒼太は叫ぶ。
「大丈夫、まさか倒れるまではしない。約束しよう。」
「ああそうそう、英国心霊協会(SPR)の方が時間があればまた来てくださいって」
ロンドンまで遠いです…と、独り言のように言う。悠人は呼ばれて、何をされるのだろうと心配な顔で見上げれば『大丈夫』と。
「問診とか、モールテンを動かすだけだからね」
食後は、仕事を片づけた家族皆が集まって、遅くまで歓談したが祖母は一度も姿を見せなかった。




