第3話 社畜オジサン 仕事を家に持ち帰るだけで無双する
週末のオフィスは少し浮足立っていた。
明日明後日が休みという事実が職場の空気を色鮮やかに染めてくれる。
週末特有の解放感が与える独特の匂いが俺は好きだった。
「ふぅ。ようやく明日はお休みですね。金曜日ってだけでウキウキします」
水飼はニコニコしながら手帳を開いている。
明日のプライベートのスケジュールとかも書いてあるのだろう。
「小路さんって休みの日って何をされているのですか?」
「ん? そうだな。家に持ち帰った仕事をしたり——」
そう答えた瞬間、水飼の手からポロっと手帳が落ちる。
そして信じられないものを見るような視線を俺に向け、身体を震わせていた。
「い、いいいい、家に仕事を持ち帰るぅぅ!? 信っじられません! プライベートな空間に仕事なんて異物を住まわせてどうするんですか!」
「いや、家で仕事をすると効率いいんだ。スーツ着なくていいし、おやつとか食べていても怒られないし」
俺がタイムリープする前、ウイルス蔓延の影響で一時期だけオンライン会議が許されていた時期あった。あの文化は最高だったな。
『出社することに意義があるんだ! ウイルスに侵されようが会社に顔を見せろ!』と言ってオンライン文化を消滅させた課長元気かな? ウイルスに侵されているといいな。
「はぁ。相変わらず仕事人間ですね。在宅勤務ってどれくらい勤務手当出るのですか?」
「え? 無給に決まってるけど?」
「ぶくぶくぶく……」
またも白目をむきながら泡を吹く水飼。
面白いけど、女の子なんだからもうちょっと清楚なリアクション取るべきだと思う。
「で、でも、ちゃんと普通の趣味とかも持っているぞ。最近はカフェ巡りになんてハマっているし」
フォローの言葉を投げた瞬間、水飼の白目に再び光が灯った。
「カフェ巡り! いいですね! 私も大学時代カフェ回るの好きだったんですよ。あー、最近行けてないなぁ。私もカフェ巡り再開しようかな」
「カフェはいいぞ。まったりとした空間に居るだけで時間の流れがゆっくりに感じるし、たまに贅沢して食べるスイーツは極上だ」
二人でデザートに想いを馳せて、じゅるりと涎の音を鳴らす。
「ち、ちなみに、ど、どなたとカフェに行かれているのですか?」
「……? カフェ巡りは一人で楽しむものに決まっているだろ」
そう答えた瞬間、水飼はホッと一つ息を漏らした。
「カフェで行う仕事は格別でな。最高効率で仕事が進む進む! 正直ここで仕事しているよりカフェで仕事している方が何倍も有意義だよ。あっ、これ管理職には内緒な」
「内緒な、じゃありません! か、かかか、カフェで仕事!? そんな酔狂な人見たことありませんよ!」
確かに……
この世界では俺以外にカフェでパソコンを開いている人見ないかも。
「仕事しないならカフェで何するんだ? まさか食事だけして帰るのか?」
「食事だけして帰るんです! もしくは複数人で来て談笑を楽しむ場であるんですよ」
「そ、そうなのか。いや、俺、こっちに友達とかいないから休みはいつもソロだったよ」
まるで地元には友達がいるみたいに言っちゃったけど、向こうでもぼっちでした。
別にいいじゃないか。一人が楽なんだから。
「はぁ……小路さんは目を話すとすーぐ仕事仕事。そんな生き方じゃ息が詰まってしまいます。今度、私が楽しいカフェでの過ごし方を教えて差し上げますので、次の日曜日のスケジュール開けておいてくださいね」
「わ、わかった。その日は仕事を入れないようにするよ」
「よろしい」
意図もせず、日曜日の予定が決まってしまった。
仕事以外のスケジュールなんて久しぶりだ。
「二人でカフェなんて、なんかデートっぽいな」
「…………」
「えっ? マジでデートなの?」
「~~~~っ!」
水飼は頬を赤く染めながら口ごもるように睨みつけていた。
普段見ることのない表情にドキンとしてしまう。
そ、そうか。デートなのか。
やばい。初めて休日が楽しみになったかも。
「ちなみに服装はスーツでいいか?」
「普通に私服で来てください!」
後日、水飼に連れ回されるようにカフェ巡りが開催された。
おごったりしたので出費は激しかったが、とても楽しい時間を過ごすことができた。
お礼に今度雰囲気の良いレストランに連れて行ってあげようと思う。
あのレストラン、充電自由だからパソコン作業に持ってこいなんだよな。
あの場所ならきっと水飼も効率良く仕事に励むことができるだろう。
………………
…………
……
レストランを紹介したらなぜか物凄く叱られた。




