第8話 レベルが上がったらマッチョになった
「先にシャワーに入るわ」
アキラはそう言うと、血で汚れた服を脱ぎ始めた。
「えっ!」
ユウは慌てて顔を背ける。
「ちょっと、見せないでよ!」
「いや、シャワー浴びるだけだろ」
「だから見てないって!」
ユウは顔を伏せた。
しかし、ふと気になってしまう。
アキラはゲームばかりしていた。
外へ出ることも少なく、運動なんてほとんどしていない。
それなのに。
「……ん?」
ユウは思わず横目でチラリと見た。
そして固まった。
「……凄いからだ」
「え?」
アキラが振り返る。
「今なんて?」
「なんでもない!」
ユウは慌てて目を逸らした。
だが、気になってもう一度見る。
太い腕。
分厚い肩。
胸板も以前とは明らかに違う。
まるで長年鍛え上げた格闘家のような身体になっている。
「ねぇ……」
「なんだ?」
「触ってもいい?」
「え?」
「胸筋とか、腕とか……」
アキラは自分の腕を見る。
「別にいいけど」
そう言って、自分の身体を改めて眺めた。
「……ん?」
腕を曲げる。
筋肉が盛り上がる。
「…………」
胸を張る。
肩が大きく張り出す。
「………………」
アキラは窓ガラスに映った自分の姿を見る。
そして叫んだ。
「なんじゃこりゃー!」
「うわっ!」
ユウがびっくりして飛び退く。
「俺、こんな身体だったか!?」
アキラは腕を曲げたり、肩を回したりする。
ゲームを始めてから運動などほとんどしていない。
それなのに、身体だけは完全に別人だった。
「昨日まで普通だったよね?」
「普通だった」
「なんでこんなに……」
アキラは窓ガラスを鏡代わりにして、ポーズを取る。
腕を曲げる。
胸を張る。
肩を広げる。
「すげぇ……」
本人が一番驚いていた。
「触れ! 触れ!」
「なんでそんなに嬉しそうなのよ」
ユウは呆れながらも、アキラの腕をペタペタ触る。
「硬い……」
「だろ?」
「本当に筋肉だ……」
「レベルアップすると、身体能力だけじゃなくて身体そのものが変化するのか?」
アキラは自分の身体を確認する。
「速筋12、遅筋11だったのが、魔物を倒してレベルが上がったことで変化したのかもしれないな」
「ゲームみたい」
「いや、現実なんだけどな」
「それが怖いんだよ」
ユウがため息をつく。
「とにかくシャワー浴びてきなよ。血だらけなんだから」
「そうだな」
アキラは急に恥ずかしくなった。
「じゃ、シャワー行ってくる」
「早く行って」
「はいはい」
アキラは逃げるように浴室へ向かった。
しばらくして。
シャワーの音が聞こえてくる。
ユウは食卓を整えながら、ステータスを確認した。
「私のレベルは……4」
そして、アキラのレベルも確認する。
「アキラは……8」
やっぱり違う。
同じパーティに入っていても、戦っているアキラのほうが圧倒的に早くレベルが上がっている。
「やっぱり、魔物を倒さないとレベルアップは遅いんだ……」
ユウが考えていると、浴室のドアが開いた。
「ふぅ……」
さっぱりしたアキラが出てくる。
「飯、食おうぜ」
「うん」
2人は食卓についた。
皿の上には、ユウが作ったチキン南蛮。
炊きたてのご飯。
そして味噌汁。
「いただきます」
アキラがチキン南蛮を一口食べる。
「……うまい」
「本当?」
「ああ。かなりうまい」
ユウが嬉しそうに笑った。
「てか、凄いね」
「え?」
「いや、この食材」
ユウが冷蔵庫を指差す。
「これ、冷凍庫でしょ?」
「ああ、そっちか」
アキラは笑った。
「親父が発注しててさ。月1で業者から食材が届くんだ」
「月1?」
「うち、親父が料理人だからな。業務用の食材を大量に頼んでる」
「だからこんなにあったんだ……」
ユウは冷凍庫を見る。
肉も魚も大量に入っている。
この非常時には、とんでもなくありがたい食料庫だった。
アキラはご飯を食べながら、ステータスを確認する。
「俺のレベルは8」
「私が4」
「やっぱり攻撃しないとレベルアップは遅いんだな」
アキラは少し考える。
「それと……」
ユウを見る。
「怪我した時にすぐ治せるように、回復役が常時必要だな」
「……え?」
ユウの箸が止まった。
「やだ……」
「なんで?」
「また魔力切れになるもん」
「でも回復できるぞ」
「怖いよ」
「マッチョになれるぞ」
「…………」
ユウは黙った。
そして、自分の腕を見る。
レベル4。
まだ大きな変化はない。
一方のアキラは、レベル8になっただけで別人のような身体になっている。
「……マッチョ」
ユウが呟く。
アキラはニヤリと笑った。
「そう。マッチョ」
「…………」
ユウは悩み始めた。
魔物と戦うのは怖い。
でも、レベルが上がれば身体能力も上がる。
そして、アキラと一緒なら安全に経験値を得られる可能性もある。
「……どうしよう」
ユウはチキン南蛮を一口食べた。
「とりあえず、もう1個食べてから考える」
「それがいい」
アキラも笑った。
外では、また遠くから魔物の鳴き声が響いていた。
2人のレベル上げは、まだ始まったばかりだった。




