第7話 料理をしていたらレベルが上がった
ユウは冷蔵庫を開けた。
中には大量の食材が入っている。
その中から鶏肉を取り出した。
「これなら……チキンバンバンでも作ろうかな」
こんな状況になっても、お腹は空く。
むしろ、アキラが外へ魔物を狩りに行っている今、自分ができることは食事を作ることくらいだった。
ユウは鶏もも肉を取り出し、ボールに入れる。
そこへ、あご出汁を注いだ。
「これで少し漬け込んで……」
次に衣を作る。
コーンスターチ2、片栗粉3、小麦粉5。
それぞれを量って混ぜ合わせる。
「よし」
鍋に油を入れる。
温度計を確認すると、190度。
「180度より少し高め。これならカリッと揚がるはず」
ユウは鶏肉に衣をつけ、慎重に油へ入れた。
ジュワァァァッ!
一気に油が弾ける。
「熱っ!」
ユウは少し後ろへ下がりながら、鶏肉の様子を見る。
その間に甘酢を作る。
みりんと酢を混ぜ合わせ、そこへ砂糖を加える。
続いてタルタルソース。
冷蔵庫を探すと、ゆで卵があった。
「あった!」
ゆで卵を細かく刻む。
玉ねぎもみじん切りにする。
それを合わせて、タルタルソースを作る。
そこへ砂糖を加える。
「これでいいかな」
その時だった。
ピロンッ。
突然、頭の中に聞き覚えのある音が響いた。
【レベルアップしました】
「え?」
ユウは固まった。
「……私?」
自分の身体を見回す。
何もしていない。
魔物なんて倒していない。
料理をしていただけだ。
「なんで?」
その瞬間、ユウは思い出した。
アキラが言っていた。
「パーティ登録すれば、50メートル以内だったら経験値を共有できる」
「……まさか」
ユウは玄関の向こうを見る。
アキラは外で魔物を狩っている。
つまり今、アキラが魔物を倒すたびに、自分にも経験値が入っている。
「アキラ……」
外では、まだ戦っているのだろう。
ユウは少し心配になった。
しかし、料理を焦がすわけにはいかない。
「まずはこれを完成させないと」
鶏肉を見る。
衣がきつね色より少し濃い色になっている。
「よし!」
ユウは鶏肉を油から取り出した。
カラッと揚がった鶏肉。
それを先ほど作った甘酢に漬け込む。
ジュッ。
甘酸っぱい香りが広がった。
すぐに取り出して皿へ並べる。
その上から、タルタルソースをたっぷり乗せる。
「できた!」
その時。
ピロンッ。
【レベルアップしました】
「また?」
ユウは驚いた。
「アキラ、どれだけ倒してるの……?」
外では、アキラが必死に戦っている。
自分は安全な家の中で料理をしているだけなのに、経験値だけがどんどん入ってくる。
「なんか……悪い気がする」
だが、今はアキラが戻ってくるのを待つしかない。
炊飯器を見る。
「そろそろかな」
しばらくすると、ピッという音が鳴った。
ご飯が炊き上がった。
蓋を開けると、白い湯気が立ち上る。
「うん。完璧」
その瞬間。
ピロンッ。
【レベルアップしました】
「え?」
まただった。
「アキラ……本当に何匹倒してるの?」
ユウは思わず苦笑した。
そして味噌汁を作る。
鍋にあご出汁を入れ、味噌を溶く。
冷蔵庫から豆腐と揚げを取り出す。
豆腐を切り、揚げを入れる。
最後にネギを入れる。
「完成」
味噌汁から湯気が立ち上った。
チキンバンバン。
炊きたてのご飯。
味噌汁。
久しぶりにまともな食事ができた。
「アキラ、早く帰ってこないかな」
その時だった。
ガチャッ。
玄関の鍵が開く音。
「!」
ユウが振り向く。
「た……だ……いま~……」
「アキラ!」
ユウは安心した。
「丁度できたよ!」
笑顔で振り向く。
だが、その笑顔が一瞬で消えた。
「……え?」
アキラが立っている。
服は血まみれ。
顔は青白い。
そして右腿には、大きな穴が開いていた。
そこから血が流れ落ちている。
「アキラ!」
ユウは慌てて駆け寄った。
「大丈夫!?」
「……回復してくれ」
「え?」
「回復魔法」
「え? え? どうすればいいの?」
「手のひらを向けて、回復って言えばいい」
「そんな簡単なの!?」
「たぶん」
「たぶんって!」
ユウは慌てて手のひらをアキラの腿へ向けた。
「か、回復~!」
その瞬間。
ユウの手から白い光が溢れ出した。
「わっ!」
白い光がアキラの傷口を包み込む。
開いていた傷が、ゆっくりと塞がっていく。
流れていた血も、少しずつ止まっていく。
「すごい……」
ユウは呆然と手を見る。
「本当に回復魔法……」
アキラは壁にもたれながら、苦しそうに息を吐いた。
「チョリキにやられた」
「チョリキ!?」
「倒したけどな」
「倒したけどな、じゃないよ!」
アキラは苦笑する。
「ゲームだと、そんなに強い敵じゃなかったんだけどな」
「現実なんだから無茶しないでよ!」
「でも、かなり狩ったぞ」
「だから血まみれなんでしょ!」
アキラはその場に座り込んだ。
「……10分くらい頼む」
「え?」
「血が止まるまで」
ユウは慌てて回復を続ける。
10分ほどすると、ようやく出血が止まった。
「よかった……」
ユウがホッとした、その直後だった。
「……あれ?」
ユウの身体がふらついた。
「ユウ?」
「なんか……急に力が……」
顔から血の気が引いていく。
「おい!」
アキラが立ち上がろうとする。
だが、ユウはそのまま倒れた。
「ユウ!」
アキラが慌てて抱き止める。
「どうした!?」
ユウの顔は真っ青だった。
アキラはすぐに気づいた。
「……魔力切れか」
回復魔法を使い続けたことで、ユウの魔力が底をついたのだ。
ユウは薄く目を開けた。
「……お腹……すいた……」
「……」
アキラはテーブルを見る。
そこには出来たばかりのチキンバンバン。
炊きたてのご飯。
そして、湯気の立つ味噌汁。
アキラは小さく笑った。
「そうだな」
ユウを椅子に座らせる。
「まず飯にしよう」
外では、まだ遠くから魔物の鳴き声が聞こえていた。
だが、この家の中だけは、久しぶりに温かい料理の匂いに包まれていた。




