第6話 料理人の家は武器庫だった
スマホのアゲダマ戦記を見ると、ステータスとパーティ登録のボタンだけがある。
ユウをパーティ登録した。
「大丈夫だ」
アキラは、震えているユウに向かって、妙に自信満々に言った。
「パーティ登録すれば、50メートル以内だったら経験値を共有できる。だからレベルが上がるまで、ここにいろ」
「……パーティ?」
「そう。俺がモンスターを倒せば、ユウにも経験値が入る」
「じゃあ、アキラが外に出るの?」
「俺が1人で狩りをしてくる」
「えっ?」
ユウの顔が引きつった。
さっきまで家の前でハウンドドッグと戦っていた男が、今度は1人でモンスターを狩りに行くと言っている。
「危ないよ!」
「大丈夫。俺にはゲームの知識がある」
「でもレベル3なんでしょ!」
「……それは言うな」
痛いところを突かれた。
アキラは少しだけ目を逸らす。
「とにかく、俺が狩ってくる。その間、ユウはここにいろ」
「でも……」
「それと」
アキラは台所を指差した。
「飯でも作ってくれ」
「なんで!?」
「腹が減るから」
「モンスターを狩りに行く人の言葉じゃないよ!」
「腹が減ったら戦えないだろ」
妙に説得力がある。
ユウはしばらくアキラを見つめたあと、深いため息をついた。
「……何が食べたいの?」
「肉」
「分かったよ!」
ユウが台所へ向かう。
その間にアキラは武器を作り始めた。
まず取り出したのは、刃渡り30センチほどの柳葉包丁。
それをモップの棒の先端に当てる。
そしてビニールテープを取り出した。
「これでいいだろ」
ぐるぐる。
ぐるぐる。
さらにぐるぐる。
念入りに巻き付ける。
完成したのは、どう見ても素人製の槍だった。
「……槍?」
ユウが台所から顔を出す。
「そう。包丁槍」
「怖いんだけど……」
「接近戦よりはマシだろ」
アキラは完成した槍を持ち上げる。
30センチの刃先が、天井の照明を反射して鋭く光った。
だが、アキラはそこで何かを思い出した。
「そういえば……」
台所の奥にある大型の収納棚へ向かう。
そこを開けた瞬間、ユウが目を丸くした。
「なにこれ……」
そこにあったのは、異様に長い包丁だった。
刃渡り60センチ。
まるで日本刀のような細長い刀身。
マグロの解体に使う、巨大な柳葉包丁だった。
アキラの父親は料理人だ。
しかも元ミシュラン3つ星。
一般家庭にはまず存在しないような業務用の調理器具が、この家には普通に置いてある。
「これなら……」
アキラが持ち上げる。
ずしり。
長い。
そして、怖いほど切れそうだった。
「……強そうだ」
「それ、包丁だよね?」
「そうだけど」
「絶対に持って外に出ないでよ」
「鞘がないんだよな」
アキラは巨大な柳葉包丁を眺める。
刃渡り60センチ。
これをむき出しで持って歩くのは危険すぎる。
「鞘があれば使えるんだけどな」
そして、アキラはユウを見る。
「ユウ」
「嫌な予感しかしない」
「時間が余ったら、これの鞘を作ってくれ」
「無理!」
即答だった。
「だって鞘なんて作ったことないもん!」
「なんとかなるって」
「ならないよ!」
「じゃあ頼んだぞ」
「話聞いてる!?」
アキラは包丁槍を肩に担いだ。
そして玄関へ向かう。
「ちょっと! 本当に行くの!?」
「行ってくる」
「気をつけて!」
「大丈夫だ」
アキラは靴を履く。
ドアを開ける。
外から、冷たい風が吹き込んできた。
さっきまでの日常とは、もう完全に違う空気だった。
遠くから、何かの鳴き声が聞こえる。
グギィ……。
アキラの表情が変わった。
「……いるな」
モンスターだ。
しかも、1匹ではない。
ゲームの知識が頭の中を駆け巡る。
どこにいる。
何が出る。
どのモンスターなら今の自分でも倒せる。
そして、どこまでなら安全に狩れる。
アキラは槍を握り直した。
「ゲームじゃない」
小さく呟く。
「でも、ゲームの知識は使える」
そして、アキラはモンスターが潜む街へと歩き出した。
背後からユウの声が飛んでくる。
「アキラ! 絶対に死なないでよ!」
アキラは振り返らず、片手を上げた。
「飯、頼んだぞ!」
「そっち!?」
玄関のドアが閉まった。
ユウはしばらく呆然と立ち尽くしたあと、巨大な柳葉包丁を見た。
「……これの鞘、本当に作るの?」
家の中には、異世界のような武器と、料理人の家にしかない巨大な調理器具。
そして、これから料理を作らなければならない女子高生が1人。
「もう……めちゃくちゃだよ」
ユウはため息をつきながら、冷蔵庫を開けた。
そこには大量の肉が入っていた。
「……何作ろう」
外では、再びモンスターの咆哮が響いた。




