第5話 ログインできない
「アキラ、これ……」
ユウが震える手でテレビのリモコンを握った。
ニュース番組が映っている。
画面の向こうには、異様な光景が広がっていた。
「現場から中継です!」
ニュースキャスターの後ろに、機動隊が並んでいる。
そのさらに向こうでは、人々が悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。
「現在、都内各地で謎の生物による襲撃が確認されています!」
バリン!
建物の窓ガラスが割れる。
「うわぁぁぁ!」
人々が逃げる。
道路には倒れた自転車。
ひっくり返った車。
そして、店から商品を持ち出して走る人間までいる。
「略奪も発生しています!」
ニュースキャスターが叫ぶ。
「現在、警察と機動隊が対応に当たっていますが――」
画面の奥から、魔物が飛び出した。
「来た!」
機動隊が盾を構える。
「押さえろ!」
魔物が盾に体当たりする。
ドン!
機動隊員が数人、よろめいた。
それでも銃は撃たない。
アキラが眉をひそめた。
「なんで撃たないんだ?」
「銃、持ってるよね?」
ユウが聞く。
「ああ。でも、まだ発砲許可が出てないんだろ」
機動隊員は盾と警棒だけで魔物を押し返そうとしている。
しかし。
「無理だろ……」
アキラが呟いた。
画面の奥から、さらに魔物が現れた。
今度は巨大な猪。
灰色の毛。
太い脚。
そして頭から伸びる、巨大な角。
アキラは、その姿を見た瞬間に呟いた。
「あ」
「何?」
「チョリキだ」
「チョリキ?」
「定番のモンスター」
ゲームでは序盤から登場する猪型モンスター。
ゴブリンより強い。
ハウンドドッグよりも強い。
そして。
「突進が厄介なんだよ」
チョリキが地面を蹴った。
「ブモォォォォ!」
「来るぞ!」
アキラがテレビに向かって叫んだ。
しかし。
画面の中の機動隊には届かない。
チョリキが突進する。
ドガァァァン!
盾ごと機動隊員が吹き飛ばされた。
「うわぁぁ!」
「撤退! 撤退!」
誰かが叫んだ。
ニュースキャスターも顔を引きつらせる。
「わ、私たちも撤退します!」
キャスターが走る。
機動隊も走る。
しかし。
カメラマンだけは、その場に残っていた。
「ちょっと! カメラマンさん!」
カメラはチョリキを追い続けている。
巨大な猪が迫る。
「逃げてください!」
キャスターの声。
次の瞬間。
チョリキがカメラマンへ突進した。
「うわっ!」
画面が激しく揺れる。
そして。
ブツッ。
画面が黒くなった。
砂嵐。
数秒後。
スタジオに映像が切り替わった。
キャスターが青ざめた顔で座っている。
「……ただいま、現場から映像が途切れました」
一瞬、言葉を失う。
「カメラマンさんがどうなったのか、現在確認できておりません。無事であることを願います」
スタジオの空気が重くなる。
「とにかく、現在、街には多数の魔物が確認されています」
キャスターがカメラを見る。
「安易に外出することは控えてください」
「決して、好奇心などで魔物を見に行こうとしないでください」
テレビから流れる言葉を聞きながら、アキラは黙っていた。
ゲームなら。
チョリキ程度。
レベルを上げたプレイヤーなら簡単に倒せる。
だが。
現実では違う。
盾を持った機動隊が、あっという間に吹き飛ばされた。
「……ゲームじゃないんだよな」
アキラは呟いた。
隣ではユウが青ざめている。
「アキラ……」
「ん?」
「私たち、どうなるの?」
「……」
アキラは答えなかった。
その代わり、パソコンの前に座った。
「まず、お前もゲームをやれ」
「ゲーム?」
「ああ」
アキラは電源を入れる。
「アゲダマ戦記をやるんだ」
「今から?」
「そう。まずゲームで修行しろ」
ゲームの中なら、安全に魔物と戦える。
基本的な動きも覚えられる。
魔物の種類も知ることができる。
アキラはそう考えた。
「まずは初心者クエストからだ」
ゲームを起動する。
いつものタイトル画面。
だが。
「……あれ?」
ログインボタンを押す。
反応しない。
「もう1回」
押す。
何度押しても反応しない。
画面に表示されている。
《サービス停止中》
「……」
アキラは固まった。
「……は?」
公式サイトを見る。
《現在、サービスを利用できません》
SNSを見る。
《アゲダマ戦記にログインできない》
《サーバー落ちた?》
《ゲームそのものがなくなった?》
「…………」
アキラは椅子の背もたれに沈み込んだ。
「嘘だろ」
ゲームを参考にしてユウを鍛える。
その計画が、開始数分で消えた。
「じゃあ……」
アキラは考える。
現実で鍛えるしかない。
しかし、ユウは普通の高校生。
魔物と戦わせるわけにはいかない。
「……これだ」
アキラは、机の上に置いていた白い魔石を手に取った。
ハウンドドッグから手に入れた3cmの魔石。
「白は回復属性」
アキラは魔石に針金を撒いて固定する。
糸を通す。
簡単なネックレスにした。
「これをやる」
アキラはユウの首にかけた。
「え?」
「これで回復できるはずだからな」
「…………はい?」
ユウが首元の白い魔石を見る。
「いやいやいや!」
「何?」
「何って、何よこれ!」
「回復アイテム」
「そんなの聞いたことない!」
「今、作った」
「作ったって……」
ユウは魔石を握った。
白い光が、ほんの少しだけ輝いた。
2人は同時に黙った。
「……」
「……」
アキラが呟く。
「やっぱり、使えるな」
ユウの顔が引きつった。
「アキラ」
「ん?」
「私、これから何をさせられるの?」
アキラは少し考えてから答えた。
「レベル上げ」
「嫌ぁぁぁぁぁ!」
家の中に、ユウの悲鳴が響いた。




