第63話「海なのに、ワニ!」
「グー……」
レットは海を見ながら、低く唸り続けていた。
「まだ何かいるのか?」
アキラが立ち上がった、その瞬間だった。
バシャァァン!
海面から、何かが飛び出した。
「うおっ!」
「うわっ!」
アキラと瀬里奈が同時にのけ反る。
飛び出してきたのは、魚のような顔をした人型の魔物。
手には、先端がフォークのように3つに分かれた槍を持っている。
「半魚人か!」
「グギャアアア!」
もう1匹も海から飛び出してくる。
2匹の半魚人が波止場へ上がってきた。
「うおおおお!」
アキラが身構える。
その横で、
「うるさい!」
ユウが槍を突き出した。
ドスッ!
槍の先端が半魚人の脇腹に突き刺さった。
「ギャッ!」
半魚人は手足をばたつかせる。
「ギギ……」
白目を剥いた。
そして、そのまま動かなくなった。
「……」
アキラと瀬里奈が固まる。
「こわ!」
アキラが思わず呟いた。
「何が?」
ユウは槍を引き抜く。
「いや、お前……」
「何?」
「容赦ないな」
「襲ってきたんだから仕方ないでしょ」
その間に、もう1匹の半魚人がアキラへ襲いかかってきた。
「うおっ!」
アキラは反射的に刀を抜いた。
「遅い!」
一閃。
ズバッ!
半魚人の首が落ちた。
ドサッ。
切断された首が地面に転がる。
その瞬間。
ビシャァッ!
緑色の血が噴き出した。
「うわっ!」
アキラが飛び退く。
しかし――。
ベチャッ。
「……」
アキラの弁当に、緑色の液体がかかった。
「うえ!」
アキラが弁当を見る。
せっかくユウが作ってくれたキャラ弁。
アキラそっくりのキャラクターの顔に、緑色の血がべったり付いている。
「まじか!」
アキラが叫ぶ。
「これ……捨ててもいいかな?」
「ダメ」
ユウが即答した。
「即答かよ!」
「食べ物を粗末にしない」
「いやでも魔物の血だぞ!」
「まだ食べられるでしょ」
「いやいやいや!」
アキラは弁当をじっと見つめる。
緑色の液体。
見た目は完全にアウト。
だが――。
「……まあ、死ぬほどじゃないか」
意を決して一口。
「……ん?」
アキラが止まった。
「どう?」
ユウが尋ねる。
アキラはもう一口食べる。
「……うまい」
「え?」
「これ、意外とうまいぞ」
「本当に?」
「なんか……出汁みたいな味がする」
アキラはさらに食べる。
「魚介系の出汁に近いな」
「魔物の血が?」
「これは大発見だ!」
アキラの目が輝く。
「料理の幅が広がるな!」
「却下」
ユウが即座に言った。
「なんでだよ!」
「見た目が嫌」
「味は?」
「嫌」
「味見くらい――」
「嫌」
「……」
アキラは諦めた。
「まあ、確かに緑色だもんな」
そのとき。
「グー……」
レットがまた唸った。
「まだいるのか?」
アキラが振り返る。
レットは海を睨んでいる。
「まだ何かいる」
瀬里奈が弓を手に取る。
「どこ?」
「海……」
ユウも海を見る。
波は静かだった。
だが――。
ザバァァァァン!
突然、海面が大きく盛り上がった。
「え?」
全員が目を見開く。
海から飛び出してきたのは――。
巨大な口。
鋭い牙。
ゴツゴツした皮膚。
そして、異常なほど巨大な胴体。
「ワニ……?」
サトミが呟く。
巨大なワニのような魔物が、波止場へ向かって突進してきた。
「うおおおおお!」
アキラが後ろへ飛び退く。
巨大な顎が、さっきまでアキラが座っていた場所を噛み砕いた。
バキィィン!
「危なっ!」
アキラは腰を抜かしそうになりながら距離を取る。
そして、海を指差して叫んだ。
「海!」
全員が見る。
「なのに!」
巨大なワニが、もう一度口を開く。
「ワニ!」
アキラが叫んだ。
「海なのにワニ!」
その勢いで、アキラは手に持っていた弁当を放り投げてしまった。
「あっ!」
ユウが叫ぶ。
キャラ弁が宙を舞う。
レットの食べかけのおにぎりも一緒に飛んでいく。
「俺の弁当ぉぉぉ!」
アキラの悲鳴が、油津港に響き渡った。




