第62話「日南の海、レットが見たもの」
ストツーは山道をひた走っていた。
「いた!」
前方から、何頭ものチョリキが道路へ飛び出してくる。
「多いな!」
アキラは速度を落とさない。
「サトミ、頼む!」
「任せて!」
サトミがストツーの魔法装置に魔力を流し込む。
屋根の魔法配線を通って、魔力が一気に走る。
「いっけー!」
水の刃が次々と飛び出した。
ズバッ!
ズバッ!
チョリキが吹き飛ばされる。
「次!」
今度は別の方向からチョリキが現れる。
「まだいる!」
サトミが魔法を撃ち続ける。
ストツーはほとんど減速することなく、山道を進んでいった。
「車の中から倒せるの、便利だな!」
ユウが感心する。
「これなら山道でもかなり楽だ!」
アキラも笑う。
だが、山道にいる魔物はチョリキだけではなかった。
道路脇の森から、紫色の鹿が飛び出してきた。
「鹿?」
瀬里奈が目を凝らす。
「普通の鹿じゃない!」
紫色の体。
角も異様に大きい。
ストツーよりも大きな体格をしている。
「でかっ!」
サトミが驚く。
「遠距離でいくぞ!」
アキラが叫ぶ。
ストツーの魔法攻撃が一斉に放たれる。
炎。
水の刃。
そして瀬里奈の矢。
紫色の鹿がこちらへ突進してくる。
だが、魔法と矢の集中攻撃を受け、道路脇へ吹き飛ばされた。
「よし!」
「まだ来るよ!」
ユウが叫ぶ。
その直後。
ズズズズズ……。
道路の先で、巨大な何かが動いた。
「……蛇?」
全員が固まる。
山の斜面から出てきたのは、とてつもなく巨大な大蛇だった。
「ストツーよりデカいぞ!」
アキラが叫ぶ。
大蛇が鎌首をもたげる。
舌がチロチロと動く。
そして――。
シャアアアアッ!
巨大な口を開けて襲いかかってきた。
「撃て!」
ストツーから一斉攻撃が放たれる。
サトミの魔法。
瀬里奈の矢。
ユウの魔法攻撃。
アキラも運転席から魔力を送り込む。
巨大な大蛇が道路をのたうつ。
やがて動かなくなった。
「……倒した」
ユウが呟く。
「山、魔物多すぎだろ」
アキラは苦笑した。
それでもストツーは止まらない。
山道を抜け、さらに進む。
やがて景色が変わった。
建物が増えてくる。
「街だ!」
ユウが声を上げる。
「日南市に入ったな」
道路標識を確認しながら進む。
国道222号線を走る。
しばらくすると、歴史を感じさせる赤レンガの建物が見えてきた。
「あれ何?」
サトミが尋ねる。
「赤レンガ館だな」
瀬里奈が答える。
「へぇ……」
4人は窓の外を眺めながら走る。
そして、やがて海が見えてきた。
「油津港だ」
アキラが言った。
「昼飯、ここで食うか?」
「海!」
ユウが叫んだ。
「海!」
サトミも叫ぶ。
「海だー!」
瀬里奈まで叫んだ。
3人が一斉に喜ぶ。
「お前ら、海くらいでそんなに喜ぶか?」
「喜ぶよ!」
「海だよ!」
「海だもん!」
アキラは笑った。
ストツーを港の近くに停める。
4人とレットは波止場へ向かった。
潮の香りがする。
風が吹く。
目の前には、どこまでも広がる海。
「……海だ」
ユウが小さく呟いた。
「きれい……」
サトミも海を見つめる。
瀬里奈はしばらく黙っていた。
そして、
「来てよかったね」
と笑った。
4人は波止場に腰を下ろした。
「じゃあ、昼飯にするか」
アキラが弁当を取り出す。
「おお!」
ユウが蓋を開けた。
「……え?」
アキラが固まる。
弁当の中には――。
アキラそっくりのキャラクター。
ユウそっくりのキャラクター。
サトミそっくりのキャラクター。
瀬里奈そっくりのキャラクター。
それぞれの顔を再現したキャラ弁だった。
「お前……余裕だな!」
アキラがユウを見る。
「だって海だよ? せっかくだから!」
ユウは得意そうに笑う。
「俺の顔、なんか変じゃない?」
「似てるよ!」
サトミが笑う。
「私のも!」
「おお! そっくり!」
瀬里奈も自分の弁当を見せる。
「私も似てる!」
「すげぇな」
アキラは感心した。
「料理Cって、こういうところにも能力使ってんのか?」
「関係ないよ!」
ユウが笑う。
その横ではレット用の弁当も用意されていた。
「お前のもあるぞ」
アキラが取り出す。
それは――。
レットそっくりのおにぎりだった。
クリーム色の毛並みまで海苔などで再現されている。
「キュー!」
レットの目が輝いた。
「具は?」
アキラが持ち上げて見る。
「……チャオチュール?」
「レット用だからね」
「お前、米も食えるんだ」
レットはおにぎりを、
ぱくっ。
「キュー!」
嬉しそうに食べる。
「単になんでも食えるけど、チュールが大好物ってだけなんだな」
「キュー!」
レットは満足そうに頷いた。
4人は笑った。
漁港には何隻もの船が停泊している。
波が静かに揺れている。
遠くには青い海。
潮風が頬を撫でる。
しばらくの間、誰も魔物の話をしなかった。
ただ海を眺めながら、弁当を食べた。
「うまいな」
「うん」
「最高!」
「海で食べると、なんでも美味しく感じるね」
そんな穏やかな時間だった。
そのとき。
「グー……」
レットが唸った。
「ん?」
アキラが振り返る。
レットはおにぎりを食べながら、海を見ていた。
そして、もう一度。
「ググ……」
レットの顔から、笑顔が消える。
「……え?」
アキラも海を見る。
「今?」
レットが見ているのは――。
海だった。




