第57話 世界ランキング1位と2位
アゲダマ戦記には、世界中に名を知られたプレイヤーが存在していた。
その中でも、特に有名なのがランキング上位者たちだった。
世界ランキング1位。
ヤンキーローズこと、デビッド・リー・ローズ。
アゲダマ戦記のサービス開始以来、圧倒的なプレイ時間と課金額、そして戦闘能力でランキング1位を維持してきた男だった。
だが――。
ゲームが現実世界と融合してから、デビッドはゲームをしていなかった。
そんなものは、もう必要なかった。
「集まったか?」
「はい!」
フロリダ州。
トロピカーナ・フィールド。
かつて野球場として使われていた巨大なドーム球場を、デビッドたちは拠点として占拠していた。
その広大な球場には、大勢の人間が集まっている。
アゲダマ戦記時代のデビッドのクランメンバー。
その数、158名。
デビッドは、世界が変わった直後から、少しずつ仲間を集めてきた。
食料を確保する。
武器を集める。
魔物を倒す。
怪我をした仲間を治療する。
そして、拠点を守る。
現在のデビッドのレベルは33。
組員158名の平均レベルは12。
決して小さな組織ではない。
「よし……」
デビッドは大型スクリーンを見上げた。
そこにはニュース映像が流れている。
島津吉貴との戦闘。
アキラ。
ユウ。
サトミ。
瀬里奈。
そして、巨大なハイラックス。
「……なんだ、これ」
デビッドの目が見開かれた。
『本日、霧島神社で確認された低級魔族が討伐されました』
「魔族……?」
デビッドは画面に近づく。
何度も映像を確認する。
魔族が炎を放つ。
それを4人が連携して攻撃する。
最後には巨大な樹木まで動き出し、魔族を貫いていた。
「……」
デビッドの表情が変わった。
「こんなに進んでるやつがいるのか!?」
焦り。
世界ランキング1位だった男が、初めて感じた焦りだった。
「俺はレベル33だぞ……」
ゲーム時代なら、誰もが追いつけないと思っていた。
だが現実になってから、状況は変わった。
レベル。
装備。
仲間。
魔石。
そして魔族。
すべてが現実のものになった。
「……急がないと」
デビッドは拳を握った。
「俺たちも、もっと強くなるぞ!」
「おおおおお!」
158名の声が、ドーム球場いっぱいに響いた。
一方――。
台湾。
台北101。
ここにも、巨大な組織が存在していた。
世界ランキング2位。
ブルーズ・リーこと、ジャン・リー。
台湾籍のアゲダマ戦記フリークである。
彼もまた、世界が変わった直後から行動していた。
「集まったか」
「はい!」
ジャン・リーの周囲には、台湾在住のアゲダマ戦記プレイヤーたちが集まっている。
彼らは「海蛇連合」と呼ばれる協力組織を作っていた。
その本拠地は台北101。
巨大な高層ビルの最上階。
そこをジャン・リーの拠点としている。
そして、その下の階にはレベルの高い者。
さらにその下には、少しレベルの低い者。
まるで巨大な階層型の城塞だった。
「現在の俺のレベルは35」
ジャン・リーはワイングラスを傾ける。
そして、テレビに映ったニュースを見る。
「……魔族討伐?」
ジャン・リーは映像を見つめた。
アキラたちの戦闘。
ハイラックスから放たれる魔法。
そして、魔族を倒した瞬間に表示される報酬。
ジャン・リーの眉間に皺が寄った。
「……先を越されてるな」
手に持っていたワイングラスに力が入る。
パリンッ!
グラスが砕けた。
「ボス!」
「大丈夫だ」
ジャン・リーは立ち上がった。
彼らには、デビッドたちとは違う強みがあった。
「捕獲班は?」
「順調です」
海蛇連合には、ギフト「捕獲」を持つメンバーが1人いた。
その能力によって、生きた魔物を捕獲する。
そして――。
安全な場所へ運ぶ。
倒す。
レベルを上げる。
この方法で、海蛇連合は効率的に戦力を増やしていた。
「もっと捕獲しろ」
「はい!」
「我々も、魔族を探す」
ジャン・リーは再びニュースを見る。
画面の中では、アキラたちが戦っている。
「世界ランキング1位も、俺も……」
ジャン・リーは拳を握った。
「このままでは終われない」
世界各地で、同じような動きが始まっていた。
かつてのアゲダマ戦記の上位プレイヤーたち。
彼らはゲームの中で競い合っていた。
だが今は違う。
ゲームの世界そのものが現実になった。
ランキング。
レベル。
特殊ギフト。
クラン。
魔石。
そして魔族。
すべてが現実の戦力になっている。
しかし、そんな彼らにも大きな問題があった。
空路だ。
世界各地を移動するための飛行機。
現在、その多くが運航を停止していた。
原因は――。
魔物。
鳥が飛行機に衝突するバードストライク。
それと同じように、現在は魔物が飛行中の航空機に衝突する。
いわば――。
「魔物ストライク」
航空関係者の間では、そう呼ばれ始めていた。
巨大な飛行型魔物が機体へ突っ込む。
翼に取りつく。
エンジンへ侵入する。
そして、最悪の場合――墜落する。
現在、通常の航空機で目的地まで無事に到着できる確率は10%未満とされていた。
そのため、一般旅客便はほとんど運航されていない。
世界は広い。
だが、その世界をつなぐ空路が失われていた。
デビッドも。
ジャン・リーも。
そして世界中の上位プレイヤーたちも。
同じ問題を抱えていた。
「日本へ行くには……どうする?」
デビッドが呟く。
「台湾から外へ出る方法がない」
ジャン・リーも同じことを考えていた。
世界ランキング1位と2位。
かつてはゲームの中で、世界中のどこにいるプレイヤーとも競争できた。
しかし今は――。
海がある。
国境がある。
魔物がいる。
そして、飛行機が飛べない。
世界は広すぎた。
だからこそ。
アキラたちの存在が、さらに大きく見えていた。
「……あいつらは、どうやってあそこまで行った?」
デビッドが呟く。
ジャン・リーも同じ疑問を抱いていた。
世界ランキング上位者たちは、まだ知らない。
その答えが――。
金の魔石で強化された、1台のハイラックスだということを。




