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アゲダマ戦記:ゲームが現実に降臨して世界のルールが急変したお話。  作者: 忍絵 奉公


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第55話 魔石自動回収バック、1万アゲダマ!


 島津吉貴を倒したあと、周囲にいた魔物たちは一斉に逃げ出していた。

 静かになった霧島神社の境内で、アキラたちはようやく一息つく。

「よし……魔石を回収するぞ」

 アキラがそう言った瞬間、ユウ、サトミ、瀬里奈の顔が一斉に曇った。

「……魔石?」

「うん。倒した魔物、かなりいたからな」

 境内を見渡す。

 そこには、これまで倒してきた魔物たちの魔石が、あちこちに転がっていた。

 赤、青、緑、茶、黄色。

 大きさもバラバラで、中には小さな魔石も大量にある。

「これ……全部拾うの?」

 ユウが遠い目をする。

「全部だ」

「……何個あるの?」

「ざっと100以上」

「100以上!?」

 3人が同時に叫んだ。

 それから始まった。

 しゃがんで拾う。

 歩いて拾う。

 少し離れた場所まで行って拾う。

 またしゃがむ。

 拾う。

 拾う。

 拾う。

「もう嫌ぁぁぁ!」

 サトミが叫ぶ。

「なんで魔物を倒したあとに、こんな地味な仕事が待ってるのよ!」

「戦闘より疲れる……」

 瀬里奈までため息をつく。

 ユウは無言で魔石を拾い続けている。

 その姿を見ながら、アキラも思った。

 確かに面倒だ。

 ゲームなら、倒した瞬間にアイテムとして回収される。

 だが現実では、自分たちで拾わなければならない。

「……そういえば」

 アキラはスマートフォンを見る。

 さっき解禁されたばかりのアゲダマショップ。

 ショップ画面は、なぜかアキラのスマートフォンにしか表示されない。

 ユウたちのスマートフォンには、管理リーダーとしての表示はあるものの、ショップそのものは開けなかった。

「俺しかショップ見られないんだよな」

「そうなの?」

「ああ」

 アキラはショップを眺めていく。

 回復ポーション。

 魔力回復ポーション。

 武器。

 防具。

 アクセサリー。

 その他にも、ゲームでは見たことのない便利そうなアイテムが並んでいる。

「……ん?」

 指が止まった。

「あ!」

 アキラが声を上げる。

「何!?」

「どうしたの!?」

「なんか見つけた?」

 3人が一斉に寄ってくる。

 アキラは画面を読む。

「魔石自動回収バック……」

「何々?」

「説明には……『倒した魔物の魔石を自動でバックに回収できます※所有者のいない魔石。周囲50メートル内』」

 全員が黙った。

 アキラが価格を見る。

「1万アゲダマ」

 3人の目が輝いた。

「買おう!」

「それいいね!」

「便利!」

 即決だった。

「いや、まだ俺が買っていいか聞いただけなんだけど……」

「いいよ!」

「今すぐ!」

「買って!」

「お、おう……」

 アキラは購入ボタンを押した。

 ピロン。

【魔石自動回収バックを購入しました】

 次の瞬間。

 周囲に散らばっていた魔石が、次々と光になって消えていく。

 赤い魔石。

 青い魔石。

 緑の魔石。

 黄色い魔石。

 小さな魔石も、大きな魔石も、まるで磁石に吸い寄せられるように次々とアキラのバックへ飛び込んでいく。

「おおおお!」

 3人が歓声を上げた。

「すげぇ!」

「楽ちん!」

「最高じゃん!」

 数十秒後。

 境内に転がっていた魔石は、ほとんどなくなっていた。

 アキラは満足そうに頷く。

「これなら車から魔物を倒しても、自動で回収されるんだろ」

「それ、めちゃくちゃ便利!」

 ユウが嬉しそうに言う。

「今まで倒したあとに車から降りて拾ってたもんね」

「これからは倒すだけでいい!」

 サトミも笑う。

 瀬里奈も大きく頷いた。

「魔石回収の時間がなくなるなら、狩れる数も増やせるね」

「そういうことだ」

 アキラはショップ画面を見ながら笑った。

「1万アゲダマ……安い買い物だったな」

 その頃。

 世界では、別の騒ぎが始まっていた。

 アキラがユウとの共通グループLINEに投稿した、島津吉貴との戦闘動画。

 ハイラックスの運転席に固定していたスマートフォンで撮影された、魔族との戦闘映像。

 その動画を誰かが保存し、SNSに投稿していた。

 最初は数万。

 それが数十万になり。

 100万を超え。

 1000万を超え。

 さらに拡散されていく。

「……何これ?」

「魔族って本当にいたの?」

「人間が倒してるぞ!」

「これ本物?」

「ゲームのイベント映像じゃないのか?」

「AIだろ!CGだろ!」

「違う! ニュースでも魔族討伐が報道されてる!」

 そして、ついには再生数が1億を突破した。

 世界中が騒然となる。

 アゲダマ戦記を知っている者たちは、動画に映る攻撃を見て叫んだ。

「これ、ゲームの技だ!」

「島津吉貴って何だ!?」

「低級魔族って表示されてるぞ!」

「人類が魔族を倒したってこと!?」

 アキラたちは、そんな世界中の騒ぎを知らない。

 彼らはハイラックスへ戻っていた。

「じゃあ帰るか」

「うん!」

 運転席にアキラ。

 助手席にユウ。

 後部座席にはサトミと瀬里奈。

 そしてレットがユウの頭の上に乗っている。

 アキラがエンジンをかけた。

「ところで……魔力、大丈夫か?」

「私はちょっと減ってる」

 ユウが答える。

「私も」

 サトミもスマートフォンを見る。

 瀬里奈も頷いた。

「私も結構使ったよ」

 アキラは荷台を見る。

「じゃあ、マカ飲むか」

「うん!」

 女子3人はマカを取り出した。

 ゴクッ。

 ゴクッ。

 ゴクッ。

 しばらくすると、3人の魔力が回復していく。

「おお、戻ってきた!」

「便利!」

「これなら帰り道も狩れるね」

 アキラはニヤリと笑った。

「じゃあ行くぞ」

 ハイラックスが走り出す。

 しばらく進むと、道路の先から魔物の群れが現れた。

「魔物!」

 ユウが叫ぶ。

「任せろ!」

 アキラは速度を落とさない。

 ユウが水の刃を放つ。

 サトミが火球を撃つ。

 瀬里奈がミスリルの矢を放つ。

 さらにアキラがハンドルを握ったまま、車体に仕込まれた魔力伝導線へ魔力を流す。

 炎。

 水。

 植物。

 そして爆発。

 ハイラックスは、走る要塞となって魔物の群れを蹴散らしていく。

 そして――。

 魔物が倒れるたび、魔石が光となって消えていく。

 魔石自動回収バックが、自動で回収しているのだ。

「おおお!」

 ユウが笑う。

「本当に拾わなくていい!」

「最高!」

 サトミも笑う。

 瀬里奈も弓を構えながら叫んだ。

「これならいくらでも狩れるね!」

 アキラはアクセルを踏み込んだ。

「帰り道が狩場になったな!」

 ハイラックスは、魔物を倒しながら宮崎の街道を走り抜けていった。

 その後ろには、魔石を拾う必要すらなくなった新時代の狩猟風景が広がっていた。


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