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アゲダマ戦記:ゲームが現実に降臨して世界のルールが急変したお話。  作者: 忍絵 奉公


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第52話 島津吉貴、現る!


霧島神社の拝殿。

その奥から、突然――。

ガタン!

賽銭箱が倒れた。

「え?」

ユウが振り向く。

ズル……。

ズルズル……。

拝殿の暗がりから、何かが出てくる。

最初に見えたのは、白い衣。

そして、長い腕。

身長は2メートルほど。

白装束を身にまとった男が、ゆっくりと姿を現した。

顔には――。

異様な笑顔が浮かんでいる。

いや。

笑顔というより、口そのものが異常だった。

口の端が頬のあたりまで裂けている。

そこから、鋭く長い牙が何本も覗いていた。

「我!」

男が叫んだ。

「島津吉貴なり!」

ズン!

その声だけで空気が震える。

「聖なる場所を荒らすのは、だれぞ!」

「……」

アキラは刀を構えた。

「なんだ、あいつ……」

見たことがない。

ゲームのモンスター図鑑。

攻略サイト。

掲示板。

イベント情報。

アキラが知る限り、あんな姿の魔物は存在しなかった。

「こんなの……見たことないぞ!」

すぐに鑑定する。

【名前】島津吉貴

【レベル】40

【身体能力】A

【大火】C

「……40?」

アキラが眉をひそめる。

「これ、レベルか?」

ユウが聞く。

「たぶん……」

アキラは島津吉貴を睨む。

「じゃあ、40って何だ?」

「レベルじゃないの?」

「いや、分からん」

アキラは困惑した。

「年齢かもしれないぞ」

「見た目、もっと年上に見えるけど……」

「そもそも魔物の年齢なんて分かるか!」

そんな会話をしている間にも、異変が起きていた。

周囲にいた魔物たちが、静かに後ずさっている。

マンキーも。

ビッグバッドも。

トリッキーさえも。

まるで、島津吉貴を恐れているかのように。

「……」

アキラの表情が変わる。

「おいおい」

神社の広場。

その中央に、アキラとユウ。

その後ろには、ストツー――いや、ハイラックス。

そして、その正面に。

島津吉貴。

魔物たちは遠巻きに見ている。

完全に、1対3の構図だった。

島津吉貴がニヤリと笑う。

「人の子よ」

「何だ?」

「聖域を荒らした罪、その身で償え!」

次の瞬間。

ボッ!

島津吉貴の両手から、炎が噴き出した。

「うわっ!」

炎を推進力のように使い、一気に距離を詰めてくる。

速い!

「来る!」

アキラが刀を構える。

島津吉貴の腕が横薙ぎに振られた。

「おらっ!」

アキラは反射的に背面へ飛んだ。

スッ!

目の前を炎をまとった腕が通過する。

「危ねぇ!」

空中で身体を反らし、そのまま着地。

島津吉貴はすでに次の攻撃に移っていた。

「ハッ!」

炎をまとった手を大きく振り上げる。

そして――。

チョップ!

「うおっ!」

アキラが首をひねってギリギリで避ける。

ドン!

地面が叩き割れた。

「アツッ!」

腕が触れていないのに、熱気だけで顔が熱くなる。

「こいつ……強いぞ!」

その隙を狙って、ユウが槍を突き出した。

「そこ!」

シュッ!

だが。

島津吉貴は軽く後ろへ跳んだ。

バックステップ。

槍の先端が空を切る。

「なっ!」

さらに後方。

ハイラックスの魔力伝導ラインが輝く。

「水刃!」

シュパッ!

鋭い水の刃が飛んでいく。

しかし島津吉貴は――。

グッ。

身体を大きく反らした。

まるで映画のマトリックスのように、上半身を後ろへ倒す。

水刃が頭上を通過した。

「避けた!」

ユウが叫ぶ。

「こいつ、ただ速いだけじゃない!」

アキラが刀を握り直す。

相手の動き。

距離。

攻撃のタイミング。

すべてを見ている。

「総攻撃だ!」

アキラが叫んだ。

「行くぞ!」

一気に間合いを詰める。

刀を横薙ぎ。

島津吉貴が身体をひねる。

空振り。

ユウの突き。

ヒュッ!

避ける。

さらにアキラ。

上段から振り下ろす。

島津吉貴は半歩だけ横へ移動。

刀が地面を叩く。

「くそっ!」

ユウが連続で突く。

「せいっ!」

「はっ!」

「やあっ!」

だが、全部避けられる。

島津吉貴は笑っていた。

その笑顔が、さらに不気味だった。

「遅い」

「なんだと!」

アキラが踏み込む。

刀を連続で振る。

右。

左。

上。

斜め。

横。

それでも島津吉貴は紙一重でかわしていく。

「当たらねぇ!」

その後方から。

「ファイヤーボール!」

ドォン!

サトミの炎が飛ぶ。

島津吉貴は身体をひねった。

炎が横を通過する。

「これも避けるのかよ!」

瀬里奈も弓を引く。

「いけ!」

バシュッ!

矢が飛ぶ。

島津吉貴が首を傾ける。

矢が頬をかすめた。

「惜しい!」

「水刃!」

ハイラックスから水の刃が放たれる。

今度は完全に逃げ道を塞ぐ角度だった。

島津吉貴が身体をひねる。

しかし――。

シュパッ!

水刃が白装束を切り裂いた。

白い布が宙を舞う。

「当たった!」

ユウが叫ぶ。

「押せ!」

アキラが叫ぶ。

「押せ! 押せ! 押せ!」

刀を振る。

ユウが突く。

ファイヤーボールが飛ぶ。

水刃が走る。

矢が飛ぶ。

島津吉貴は次々と攻撃をかわしていく。

しかし、完全には避けきれなくなってきた。

白装束が少しずつ裂ける。

「このまま押し切るぞ!」

アキラが叫ぶ。

だが――。

島津吉貴の口元から、再び不気味な笑みが浮かんだ。

「……なるほど」

その声は、先ほどまでとは違っていた。

「人の子にしては、なかなかやる」

そして。

両手の炎が、さらに大きく燃え上がった。

ゴォォォォ……。

アキラの顔から笑みが消える。

「……まだ本気じゃなかったのかよ」

島津吉貴が、ゆっくりと構えを変えた。

広場の空気が、一気に熱くなった。


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