第46話「レットはチュールしか食べない」
結局、運転席に座ったのはアキラだった。
「俺が運転する」
「え?」
瀬里奈が驚く。
「でもアキラさん、免許は?」
「ある!スーパーエキストラゴールドライセンスだ」
「ゲーム!?」
「そう!ゲームだ!無免許だ」
「ダメじゃないですか!」
瀬里奈が叫ぶ。
「でも俺、トレーラーのゲームやったことあるからな」
「ゲーム?」
「トレーラーを運転するゲーム。内輪差とか、後ろがどう動くのか、嫌ってほど覚えてる」
アキラはシートを調整すると、クラッチを踏んだ。
「それにゼロヨンのゲームもやったことがある」
「ゼロヨン……?」
「0から400メートルまでの加速を競うやつだ」
アキラがアクセルを軽く踏む。
エンジンが低く唸った。
今度は、さっきまでとはまるで違った。
スムーズに発進する。
ガクガクしない。
無駄にエンジンを吹かさない。
そして、交差点では大きく外側へ膨らんで曲がる。
後輪が壁に近づく。
しかし、ギリギリでかわした。
「……」
瀬里奈が黙る。
「……」
ユウも黙る。
「余裕だな」
アキラが言った。
ユウがムッとする。
「なんかむかつく」
「なんでだよ!」
「だって無免許なのに!」
「ゲームで練習してたんだから仕方ないだろ」
「ゲームと現実は違うでしょ!」
「でも運転できてる」
「それがむかつく!」
サトミが後ろから笑った。
「ユウちゃん、嫉妬?」
「違う!」
そんな会話をしながら、トラックは222線を進んでいく。
しばらくすると、最初のドラッグストアが見えてきた。
「ここだな」
アキラがトラックを停める。
店の入口を見ると、自動ドアは完全に大破していた。
ガラスは割れ、入口には商品や段ボールが散乱している。
しかし、店内の電気はついたままだった。
「電気は生きてるんだ」
瀬里奈が呟く。
「入ってみよう」
4人とレットが店内へ入る。
明るい。
だが、異様に静かだった。
棚を見る。
食料品の棚。
ほとんど空っぽだった。
いや。
ほとんどどころではない。
「全くないな……」
アキラが呟く。
水。
レトルト食品。
カップ麺。
お菓子。
缶詰。
ほぼ何も残っていない。
「略奪されたんだろうな」
ユウが周囲を見る。
瀬里奈は少し寂しそうな顔をした。
「私も、この店にはお世話になってました」
「そうなのか?」
「家から近かったので、よく買い物に来てました」
薬の棚へ向かう。
そこも同じだった。
風邪薬。
鎮痛剤。
消毒液。
包帯。
かなりの商品がなくなっている。
「薬も大半ないな」
アキラが言う。
すると瀬里奈が手を挙げた。
「でも、私の収納にありますよ」
「……え?」
アキラが振り返る。
「薬」
「まじか」
「はい」
瀬里奈が自分の収納を開く。
そこには以前集めた物資が入っていた。
「収納Fって、こういうとき本当に便利だな」
「時間も止まりますから」
「革命だな」
アキラが改めて感心する。
そして店内を見回す。
「食料はないけど……」
ペット用品売り場に向かった。
そこにはまだ商品がかなり残っていた。
「お!」
ユウが声を上げる。
「ペットフード、結構あるよ!」
レットが反応する。
「キュー?」
アキラは棚を見る。
そして見つけた。
「チャオチュール」
レットの目が輝いた。
「キュー!」
アキラが1袋取る。
するとレットが、ぴょん!
と跳ねた。
「お?」
もう1度跳ねる。
ぴょん!
さらに跳ねる。
ぴょんぴょん!
「これが好きなのか?」
「キュー!」
レットは嬉しそうに跳ね続ける。
「じゃあ、あるだけ持っていこう」
アキラは棚にあるチャオチュールを次々とカゴへ入れていく。
「結構あるぞ」
「キュー!」
レットはご機嫌だ。
「でも、普通のキャットフードも食べるだろ」
アキラはキャットフードの袋を1つ持ち上げ、レットに見せた。
「これ食べるか?」
「キュー!」
レットは首を横に振った。
「……食べないのか?」
「キュー!」
また首を横に振る。
「じゃあ、こっちは?」
別の商品を見せる。
「キュー!」
やっぱり首を横に振る。
アキラは呆れた。
「お前……」
そしてチャオチュールを見せる。
ぴょん!
レットが跳ねる。
もう1本。
ぴょんぴょん!
さらに見せる。
ぴょんぴょんぴょん!
「贅沢な猫だな」
ユウがすぐに突っ込んだ。
「猫じゃない!」
「でも食い方が猫だろ」
「レットは精霊!」
「そうだった」
アキラは苦笑した。
そのとき、サトミが別の棚を指差した。
「ドッグフードは?」
「犬用か」
アキラが袋を持ち上げる。
「レット、これ食べるか?」
レットが振り向く。
一瞬、じっと袋を見る。
そして。
ぴょん!
「お?」
ぴょん!
「おお?」
ぴょんぴょん!
レットが犬用チャオチュールの袋の前で、猛烈に跳ね始めた。
「これも好きなのか!」
「キュー!」
「お前チュールだけかよ!」
「キュー!」
レットは嬉しそうに、さらにぴょんぴょん跳ねた。
アキラは頭を抱えた。
「……こいつ、食生活どうなってんだ?」
ユウが笑う。
「チュールが主食なんじゃない?」
「精霊なのに?」
「精霊だからじゃない?」
「関係あるのか、それ?」
レットはそんな2人の会話など気にせず、犬用チャオチュールの袋を見つめ続けていた。
「まあいいか」
アキラはカゴを持ち上げる。
「これだけあれば、しばらく大丈夫だろ」
「キュー!」
レットが嬉しそうに鳴いた。
そしてアキラたちは、ドラッグストアの奥へと進んでいった。
まだ、店内には大量の商品が残っている。
そして、その中には。
この先の旅で、思いもよらないほど役に立つ物も眠っていた。




