第45話「ペーパードライバー、4トントラックを運転する」
「もっと速く!」
アキラが叫んだ。
「これ以上は無理です!」
運転席の瀬里奈は、必死にハンドルを握っていた。
しかし、その運転はひどかった。
「……瀬里奈」
「はい!」
「今、何速?」
「1速です!」
「なんでだよ!」
「分かりません!」
「分かりませんじゃねぇ!」
瀬里奈はアクセルを全開に踏み込んでいた。
ブォォォォォン!
エンジンがものすごい音を立てる。
しかし、トラックは思ったほど進まない。
ガクン!
ガクガクッ!
「うわっ!」
車体が激しく揺れる。
「ノッキングしてるぞ!」
「ノッキングって何ですか!?」
「エンジンが苦しんでる!」
「私も苦しいです!」
「ギア上げろ!」
「どうやって!?」
「マニュアルだろ!」
「私、オートマ普通免許です!」
「え?」
アキラの顔が固まった。
「じゃあ、このトラック……」
「マニュアル車です!」
「お前、免許本当に持ってるのか?」
「持ってます!」
瀬里奈が叫んだ。
「でもオートマ普通免許! しかもペーパーです!」
「なんでそんな奴に運転させたんだ俺は!」
「アキラ君が運転してくれって!」
「俺も4トンなんか運転したことねぇよ!」
「じゃあ私と同じじゃないですか!」
「全然違う!」
そのとき。
ガリガリガリッ!
「うわぁぁぁ!」
トラックの右側面が壁をこすった。
「内輪差!」
アキラが叫ぶ。
「内輪差って何ですか!」
「曲がるとき後ろのタイヤが内側を通るんだよ!」
「先に言ってください!」
「普通は知ってる!」
「ペーパーの上、オートマだし、普通免許です!」
「そうだった!」
また車体がガクガクと揺れる。
そのたびに、狭い車内で3人が押し合う。
「ちょっと、アキラ!」
「なんだ!」
「動かないで!」
「動けないんだよ!」
ユウが困った顔をする。
「なんか硬いのが当たってるんですけど」
「俺だって知らねぇよ!」
サトミも身動きできずに言う。
「こっちにも当たってるよ?」
「だから狭すぎるんだよ!」
アキラが必死に身体をずらす。
「シフトノブだ!」
「え?」
「シフトノブ!」
アキラが叫んだ。
「俺の身体じゃない! シフトノブだ!」
「……ああ」
ユウが納得する。
サトミも頷いた。
「紛らわしいね」
「紛らわしくねぇよ!」
そんなことをしている間にも、トラックは1速のまま走っている。
ブォォォォォン!
ガクガクガクッ!
「もう駄目だ!」
アキラが前方を指差した。
「アオンの隣にスタンドがある!」
「スタンド?」
「ガソリンスタンド!」
「そこに行け!」
瀬里奈がハンドルを切る。
「分かりました!」
「ゆっくり!」
「はい!」
ガリッ!
「ゆっくりって言っただろ!」
「無理です!」
どうにかこうにか、トラックはガソリンスタンドへ入った。
そして、奇跡的に給油スペースへ到着する。
「止まれ!」
瀬里奈がクラッチを踏み損ねる。
ガクン!
「うわっ!」
エンジンが大きく震えた。
「止まりました!」
「……エンストしただけだ」
「止まったからいいじゃないですか!」
「まあ……そうだな」
アキラは深く息を吐いた。
ようやく静かになった。
4人は全員、ぐったりしていた。
「生きてる……」
ユウが呟く。
「車に乗っただけなのに疲れた……」
サトミも疲れた顔をしている。
アキラはトラックから降りた。
「とりあえず給油するぞ」
ガソリンスタンドは無人だった。
セルフ式らしく、給油機だけが動いている。
「これ、使えるのかな?」
ユウが心配そうに聞く。
アキラは給油機を確認する。
「普通に電源が入ってるな」
試しにお金を入れる。
すると、画面が表示された。
「給油できるぞ」
「本当に?」
「ああ」
ノズルを取って給油を開始する。
ゴォォォ……。
ガソリンがタンクへ入っていく。
「すごい……」
瀬里奈が呟いた。
「世界中が大変なことになってるのに、セルフの給油機は普通に動いてる」
「電気が生きてる場所は、まだ使えるってことだな」
給油を終える。
アキラはトラックを見上げた。
「このトラックはいただこう」
ユウが驚いた。
「いいのかな?」
瀬里奈が真顔で言った。
「持ち主、ゾンビですよ」
「そうだった!」
サトミも頷く。
「じゃあ問題ないね!」
「問題はあると思うけどな……」
アキラは苦笑した。
しかし、今の世界では移動手段そのものが貴重だ。
4トンも積めるトラックなら、食料や魔石、資材を大量に運べる。
何より瀬里奈は、一応普通自動車の免許を持っている。
「よし」
アキラがトラックの荷台を確認する。
「これからこいつを使おう」
「私が運転ですか?」
瀬里奈が恐る恐る聞く。
「……練習しろ」
「はい!」
「ただし、次は1速全開禁止な」
「分かりました!」
アキラは周囲を見渡した。
そして、道路の先を見る。
「そうだ」
「どうしたの?」
ユウが聞く。
「レットの餌だ」
アキラはレットを見る。
レットはユウの頭の上で、
「キュー」
と鳴いている。
「この222線には、ドラッグストアが3件ある」
「ドラッグストア?」
「食料やペット用品がある可能性が高い」
「レットの餌を探すの?」
サトミが聞く。
「そうだ」
アキラは頷いた。
「今後、こいつを連れて行くなら餌の確保は重要だ」
レットが、
「キュー!」
と嬉しそうに鳴いた。
「お前、分かってるのか?」
アキラがレットの頭を撫でる。
レットは目を細める。
「キュー……」
「よし。次はドラッグストアだ」
アキラが運転席を見る。
そして瀬里奈を見る。
「瀬里奈」
「はい!」
「今度は2速に入れてみよう」
「……2速って、どこですか?」
「お前ぇぇぇ!」
222線の静かな道路に、アキラの叫び声が響き渡った。




