第40話「バルログの肉はうまい」
午前8時。
アキラたちは、アオンを目指して国道222号線を歩いていた。
車はほとんど走っていない。
道路には乗り捨てられた車や、魔物に壊された看板が残っている。
そのときだった。
「グー……」
レットが突然、低い声を出した。
「ん?」
アキラが足を止める。
レットが見つめているのは、200メートルほど先。
路上駐車されている1台の車だった。
次の瞬間。
ドガァン!
車が突然、横倒しになった。
「なんだ?」
アキラが目を凝らす。
倒れた車の横から、何かが飛び出した。
牛のような巨体。
太い脚。
大きな角。
そして、猛烈な勢いで車へ突進している。
「牛?」
サトミが言う。
「いや……」
アキラの目が輝いた。
「バルログだ!」
「魔物でしょ!」
ユウが槍を構える。
「あぁ!」
アキラは嬉しそうにミスリルの剣を抜いた。
「ゲームでも、あいつの肉は高値で取引されるんだ」
「肉?」
「そう!」
アキラの顔が完全に変わった。
「倒すぞ!」
「目的、アオンじゃなかったの?」
「肉!」
アキラが道路の真ん中を走り出した。
バルログもこちらに気づいた。
「グオオオオオ!」
巨体が一直線に向かってくる。
そのときだった。
ヒュン!
横道から飛んできた矢が、バルログの腹に突き刺さった。
「!」
バルログが足を止める。
「誰かいるのか?」
アキラが横道を見る。
そこから現れたのは、見慣れない女性だった。
長い髪。
動きやすそうな服。
頭と服に鴉の羽だらけ。
手には弓。
どこかインディアンを思わせる姿をしている。
女性はすぐに次の矢をつがえた。
「弓使いか!」
しかしバルログは、矢が刺さったことで完全に怒った。
「グオオオオオ!」
女性へ向かって突進する。
「危ない!」
アキラが叫ぶ。
女性は第2矢を放つ暇もなく、横へ転がった。
バルログがそのまま突っ込む。
ドォン!
「え?」
巨大な体が電柱に激突した。
バキバキバキッ!
電柱が根元から折れ、そのまま道路へ倒れていく。
「うわ!」
女性は起き上がろうとした。
だが、バルログはまだ止まらない。
「グオオオオオ!」
頭を振り、跳ねるように暴れ回る。
そして女性の足へ、その巨体が迫った。
「キャー!」
ドスン!
「足!」
ユウが叫ぶ。
アキラはすぐに剣を抜いた。
「行くぞ!」
ユウも槍を構える。
「うん!」
サトミは炎の杖を握った。
手が震えている。
「わ、私……どうすれば?」
「魔力を流せ!」
「う、うん!」
サトミが杖へ魔力を流す。
杖の先に赤い光が集まり、熱が生まれる。
やがて、小さな火の玉が杖先に浮かんだ。
「できた!」
だが、火の玉は飛ばない。
「行け!」
サトミが叫ぶ。
飛ばない。
「発射!」
飛ばない。
「なんでぇ!」
サトミがパニックになる。
アキラが叫んだ。
「あ、説明してなかったな!」
「今それ言う!?」
「魔力を断ち切って、飛ばすイメージだ!」
「魔力を……断ち切る?」
「そう!」
サトミは必死にイメージする。
火の玉へ流している魔力を、途中でスパッと切る。
「……いけ!」
ボウッ!
火の玉が杖先から飛び出した。
一直線にバルログへ向かう。
ドォン!
命中。
「グオオオオオ!」
バルログの巨体が一気に炎に包まれた。
「燃えた!」
サトミが驚く。
だが、バルログは止まらない。
炎をまとったまま、さらに暴れ回る。
「まだ生きてる!」
ユウが槍を構える。
アキラはバルログの動きを見ながら距離を詰める。
「もう少し待て!」
バルログは何度も跳ね、道路を激しく踏み鳴らした。
やがて動きが鈍くなる。
炎も少しずつ弱まっていく。
「今だ!」
アキラが走った。
ミスリルの剣が閃く。
ズバッ!
バルログの首が落ちた。
巨体が道路に倒れる。
静かになった。
「……倒した」
サトミが呟く。
ユウはすぐに女性のところへ駆け寄った。
女性の足は、バルログに踏みつぶされていた。
「大丈夫?」
女性は苦痛に顔を歪めている。
ユウが膝をついた。
「回復~!」
白い光が足を包む。
折れていた足が、ゆっくりと元の状態へ戻っていく。
「……!」
女性が驚いて自分の足を見る。
「治った……?」
「大丈夫?」
ユウが尋ねる。
女性はゆっくり立ち上がった。
そして、アキラたちを見た。
アキラは倒れたバルログを見る。
「焼き加減は……」
少し考える。
「ウェルダンだな」
「そこ!?」
サトミが突っ込んだ。
アキラはバルログの死体を眺めながら、満足そうに笑った。
「でも、肉は確保できた」
レットが、
「キュー!」
と鳴いた。
女性はそんな4人と1匹を、不思議そうに見つめていた。
そして、手にしていた弓をゆっくり下ろした。
彼女は、いったい何者なのか。
アキラたちはまだ知らなかった。




