第39話「レット、パンを舐め尽くす」
朝7時。
アキラたちは朝食のため、リビングに集まっていた。
テーブルの上には、こんがり焼かれたトースト。
その表面には、たっぷりのピーナッツバターとマヨネーズが塗られている。
「これ、何?」
サトミが不思議そうにトーストを見る。
「ピーナッツバターとマヨネーズ」
アキラが答えた。
「その組み合わせ?」
「そう。意外といけるぞ」
「本当に?」
サトミが恐る恐る一口食べる。
「……!」
目が大きくなる。
「うまい!」
「だろ?」
ユウも一口食べる。
「本当だ。初めて食べる味」
ピーナッツバターの甘さと、マヨネーズの塩気。
そこに焼いたパンの香ばしさが加わって、妙にクセになる味だった。
「これはありだね」
サトミも気に入ったらしい。
他にはサラダ、目玉焼き。
そしてモカブレンドのコーヒー。
いつもの朝食だった。
ただし、1人だけ違った。
「キュー」
レットがトーストを見つめている。
「お前も食べるのか?」
アキラが少しちぎってやる。
レットはトーストに近づくと、ぺろぺろ。
ぺろぺろ。
ぺろぺろ。
「……」
「……」
「……」
3人が見つめる中、レットはピーナッツバターとマヨネーズだけを見事に舐め尽くしていった。
そして満足そうに、
「キュー」
と鳴いた。
残ったのは、完全に水分を含んでベロベロになった食パン。
「……これ、どうする?」
ユウが苦笑する。
「もったいないな」
アキラはベロベロの食パンを持ち上げた。
「俺が食べる」
「え?」
アキラは再びピーナッツバターとマヨネーズを塗った。
そしてトースターへ。
しばらくすると、香ばしい匂いが漂ってくる。
その間、テレビでは朝のニュースが流れていた。
「全国各地で進められている城壁建設について、政府は昨日、全国平均で約3割に達したと発表しました」
アキラがテレビを見る。
画面には巨大な壁に囲まれた都市が映っている。
「3割か」
「結構できてきたね」
ユウが言う。
「ただし、地域によって大きな差があります。東京、大阪、横浜などの大都市圏では、すでに約8割の完成率となっています」
「やっぱり大都市は早いな」
アキラはコーヒーを飲む。
一方、サトミはテレビを見ながら目玉焼きを食べている。
するとニュースが次の話題へ移った。
「また、魔石の買い取り所が全国各地で営業を開始しました」
画面に大きく看板が映る。
そこには、
『アラファト魔石売買所』
と書かれていた。
「……」
アキラは画面を見つめた。
「アラファト議長かよ!」
思わず苦笑する。
ユウも笑った。
「前にテレビに出てた人?」
「ああ。ゲーム内でも金儲けが大好きだった奴だ」
「現実でも始めたんだ」
「たぶんな」
アキラはテレビを見続ける。
魔石の買い取り価格。
魔石の種類。
魔石の大きさ。
そして魔石を使った新技術。
次々と情報が流れていく。
そのころ。
トースターから、
チン!
という音がした。
「焼けたぞ」
アキラは新しく焼き上がったトーストを皿に乗せた。
だが、テレビに夢中になっていた。
その隙に。
レットが近づく。
ぺろ。
ぺろぺろ。
ぺろぺろぺろ。
「……」
誰も気づかない。
数分後。
アキラはテレビを見ながらトーストを手に取った。
「いただきます」
一口。
「……ん?」
妙に柔らかい。
というか、ふやけている。
アキラはパンを見る。
そして、レットを見る。
「……」
レットは知らん顔をしている。
「お前か!」
「キュー!」
レットが飛び跳ねた。
「待て!」
レットはピョン!
さらにピョン!
テーブルの下を抜け、ソファーの横へ。
「こら!」
アキラが追いかける。
「キュー!」
レットは楽しそうに逃げる。
ピョン!
ピョン!
ピョン!
「パンを舐めるな!」
「キュー!」
「食べるなら全部食え!」
「キュー!」
「そこだけ舐めるな!」
リビングの中を、アキラとレットが追いかけっこを始める。
ユウは呆れながら笑った。
「朝から何やってるのよ」
サトミも笑う。
「レット、足速いね」
「笑ってないで捕まえてくれ!」
「無理!」
レットはさらに高く跳ねた。
そしてアキラの頭の上を飛び越える。
「こいつ!」
ようやくレットを捕まえたアキラは、両手で抱き上げた。
「もうパンは駄目だからな」
「キュー……」
レットがしょんぼりする。
「……」
アキラは少し考える。
「明日、ちゃんと食べられるものを買ってやる」
「キュー!」
途端にレットが元気になった。
「現金な奴だな」
そして時計を見る。
7時50分。
「そろそろ準備するぞ」
全員が立ち上がった。
装備を確認する。
アキラはミスリルの剣。
ユウはオリハルコンの槍と雷の杖。
サトミは炎の杖と結界。
そしてレット。
「キュー!」
準備完了。
午前8時。
4人と1匹は、アオンとペットショップを目指して家を出た。
「よし、行くぞ!」
今日もまた、魔物だらけの世界を歩いていく。
目的は魔石。
そしてレットの食料。
さらに、まだ誰も知らない何かが待っているかもしれない。
アキラたちは、静かな街へと歩き出した。




