第36話「結界Fの性能」
桜井家を出て、アキラたちは来た道を戻っていた。
遊歩道を歩く。
「結界の性能、早く試してみたいね」
サトミが楽しそうに言う。
「ああ。ただ、まずはレベルを上げないとな」
「そうだね」
その時だった。
ガサッ!
頭上の木が揺れた。
「ん?」
アキラが上を見る。
次の瞬間。
バッ!
木の上から、ワイルドキャットが飛びかかってきた。
「サトミ、下がれ!」
アキラは慌てなかった。
腰のミスリルの刀を抜く。
そして――
シュッ!
空中にいたワイルドキャットを、一閃。
魔物の身体が真っ二つになって落ちた。
ドサッ。
「……」
サトミが目を丸くする。
「すご……」
「ワイルドキャットだな」
アキラは落ちた魔物から小さな魔石を取り出した。
その時だった。
ピコン!
サトミのスマートフォンが鳴った。
「え?」
サトミが画面を見る。
「レベル上がった……?」
アキラが笑った。
「だな」
「私、何もしてないのに?」
「パーティ登録してるからな。経験値が入ったんだろ」
「すごい」
「帰って確認しよう」
3人はそのまま家へ戻った。
家に着くと、アキラはサトミのスマートフォンを確認した。
「レベル2だな」
「2!」
「少しステータスも上がっただろ?」
「うん」
サトミは自分のステータスを見ながら嬉しそうに笑う。
そして、突然アキラを見る。
「ねえ、アキラ君ってさ」
「ん?」
「メロいね」
「……メロい?」
アキラが首を傾げる。
サトミはニヤッと笑った。
「ふふふ」
そして、両手を顔の横に持っていき――
「ギュンすぎて滅!」
謎のポーズを決めた。
「……」
アキラは固まった。
「何それ?」
「知らない?」
「知らん」
その隣では――
「……」
ユウが歯ぎしりしていた。
ギリギリギリ……。
「ユウ?」
「別に」
明らかに別にではなかった。
アキラは気にせず話を進める。
「それより、結界を試してみろ」
「うん」
サトミは両手を前に掲げた。
「こう?」
すると――
フワッ。
サトミの前方に、円形の壁のようなものが現れた。
透明に近い。
だが、確かにそこに何かがある。
「おお!」
「これが結界……」
サトミ自身も驚いている。
「よし」
アキラはスマートフォンをユウに渡した。
「片手でスマホを見て、サトミの魔力がどれくらい減るか確認してくれ」
「分かった」
ユウがスマートフォンを持つ。
アキラは刀を抜いた。
そして結界の内側から、外へ向かって刀を振る。
スカッ!
「え?」
刀は何の抵抗もなく通り抜けた。
「これ……」
アキラは結界の外へ回る。
そして同じ場所へ刀を振った。
ガン!
「うわっ!」
刀が弾き返された。
「なるほど」
アキラは結界を見る。
「内側からは無効」
「外からの攻撃だけ防ぐんだ」
「そういうことか」
その時。
ユウが声を上げた。
「あ!」
「どうした?」
「魔力、減ってる!」
「どれくらい?」
「2減った!」
「攻撃されたからか?」
アキラはもう一度、結界の外から刀を振る。
ガン!
「どうだ?」
「あ!」
ユウがスマートフォンを見る。
「また2減った!」
「攻撃で減るのか」
アキラは考え込む。
「じゃあ、もう一度」
ガン!
「減った!」
「なるほど」
アキラは結界を観察する。
「そして……」
少し歩いて横から確認する。
「これ、全方向じゃないな」
「え?」
「サトミが見ている方向だけだ」
アキラは結界の端を確認する。
「だいたい150度くらいか」
「150度?」
「今のレベルじゃ、都市を円形で守るなんて無理だな」
アキラは納得したように頷く。
「でも、十分使える」
「本当?」
「ああ」
アキラは刀を鞘に収めた。
「いいぞ。今日はここまでだ」
「分かった」
サトミが両手を下ろす。
結界が消えた。
「よし、家に入るか」
アキラが玄関へ向かう。
そして――
ドンッ!
「ぐはっ!」
アキラの顔面が、何かに思い切りぶつかった。
「痛ってぇ!」
「え?」
サトミとユウが振り返る。
アキラが鼻を押さえる。
「……何?」
目の前を見る。
何もない。
だが、確かに何かがある。
「おい」
アキラが手を伸ばす。
ペタッ。
透明な壁に触れた。
「……」
サトミを見る。
サトミは両手を完全に下ろしている。
「何?」
「おれ、締め出された?」
ユウが冷静に言った。
「サトミさんの魔力なくせばいいんじゃない?」
「……そうか」
アキラは納得した。
そして透明な結界を両手で叩き始めた。
「ガン!」
「ガン!」
「ガン!」
「ガン!」
「ちょっと、アキラ君!」
「大丈夫だ」
「何が大丈夫なの!?」
「魔力が減れば消えるんだろ?」
「そうだけど!」
「ガン!」
「ガン!」
「ガン!」
ユウがスマートフォンを見る。
「あ」
「どうした?」
「サトミさんの魔力、ほとんどない」
サトミの顔が青くなる。
「え……」
「あと少しだな」
「アキラ君、待って――」
「ガン!」
その瞬間。
サトミの身体から力が抜けた。
「きゃっ……」
その場に倒れる。
「サトミ!」
同時に――
フッ。
透明な結界が消えた。
「……」
アキラは玄関の前で固まった。
「……結界、使い方を考えないとな」
ユウがため息をつく。
「まず、家の出入り口を塞がないことからだね」
「……そうだな」
こうして、結界Fの性能と――
その恐ろしい欠点が判明した。




