第35話「結界Fは国宝級」
「まず、紹介するね」
海斗が振り返った。
「姉ちゃん」
「はいはい」
階段の方から、女性が歩いてくる。
「サトミで~す」
アキラは一瞬、言葉を失った。
茶髪。
少し明るい雰囲気のギャル風。
そして、かなりの美人だった。
年齢はアキラの1個下。
つまり、ユウからすれば1年先輩になる。
「よろしく」
サトミがアキラを見て、ニコッと笑った。
「あ、どうも……」
アキラの鼻の下が、わずかに伸びる。
その瞬間。
グリッ。
「う゛!」
ユウがアキラの足を踏んだ。
「何するんだ!」
「別に」
ユウは何食わぬ顔で答える。
「……」
アキラは何も言わなかった。
リビングへ案内される。
両親も同席し、全員でテーブルを囲んだ。
「それで、今日は何の用なの?」
サトミの母親が尋ねる。
アキラは本題に入った。
「まず確認させてください」
アキラはサトミを見る。
「サトミさんのギフトは、結界ですか?」
「うん」
サトミが頷く。
「結界F」
「……」
アキラの表情が変わった。
「珍しいの?」
サトミが首を傾げる。
「ああ」
アキラは真顔で答えた。
「国宝級だ」
「え?」
家族全員が固まった。
「国宝!?」
「そんなに!?」
「お姉ちゃん、すげぇ!」
サトミ本人も驚いている。
アキラはスマートフォンを見ながら説明する。
「今はFだから、大したことはありません」
「え?」
「でも、これがE、D、C……そしてBやAになったら、とんでもないことになる可能性があります」
「……」
「結界は、魔物から人を守れる」
アキラは真剣な顔で続けた。
「この世界では、攻撃能力より重要になるかもしれません」
家族の表情が変わった。
そしてアキラは、少し姿勢を正した。
「そこで提案なのですが」
「はい」
「身体能力のレベルも上げなければ、ギフトを持っていても使い物になりません」
サトミが首を傾げる。
「身体能力?」
「魔物を倒すことで、レベルが上がります」
アキラは説明する。
「レベルが上がれば、速筋、遅筋、打たれ強さなどの能力も上昇します」
「なるほど……」
「なので、しばらく私たちと行動を共にしていただきたいんです」
「私たちと?」
「はい」
アキラは隣のユウを見る。
「私の家で、住み込みで」
「え?」
サトミが目を丸くする。
ユウも頷いた。
「私も住み込みだから」
「……」
サトミがユウを見る。
そしてアキラを見る。
「変なことは起こりません」
アキラが真面目に言った。
「変なことって何?」
「い、いえ……」
アキラが視線を逸らす。
サトミは少し笑った。
「いいよ」
「え?」
「イケメンだし!」
「……!」
アキラの顔が明るくなる。
だがユウが無言で睨んでいた。
「それで、ご家族もよろしいでしょうか?」
アキラが両親に尋ねる。
父親と母親は顔を見合わせた。
「娘の安全が確保されるなら……」
「私も賛成です」
その時だった。
海斗が手を挙げた。
「俺も!」
「お前はいらない」
即答だった。
「なんで!?」
「だって俺、ギフトCだよ!」
海斗が胸を張る。
「縦笛C!」
「いらんわ!」
「Cだぞ! Fより上だぞ!」
「今のところ必要ない」
海斗ががっくりとうなだれる。
「……」
「……」
家族全員から、残念そうな視線が海斗に集まる。
「なんでみんなそんな目で見るんだよ!」
アキラは話を戻した。
「では、よろしいでしょうか?」
両親は頷いた。
「お願いします」
「ありがとうございます」
アキラはすぐにスマートフォンを取り出した。
「それではパーティ登録します」
サトミもスマートフォンを操作する。
数秒後。
「登録完了」
アキラが頷いた。
「これで、私たちの近くにいれば経験値を共有できます」
「経験値?」
「魔物を倒せば、身体能力のレベルが上がります」
アキラは少しだけ真剣な顔になった。
「ただし、危険です」
家族全員が黙る。
「魔物との戦闘では、普通に死ぬ可能性があります」
サトミの母親が不安そうな顔をする。
「でも、私たちはそのことにいち早く気づきました」
アキラは自分とユウを見る。
「今、私たちはレベル10以上あります」
「そんなに?」
「はい」
そしてアキラは、さっき倒したゴブリンの話をした。
「先ほどもゴブリンが5体いました」
ユウが椿の杖を持ち上げる。
「私が倒した」
「瞬殺でした」
アキラが言う。
「だからこそ、サトミさんの安全は私たちができる限り保障します」
サトミの両親は顔を見合わせる。
そして母親が微笑んだ。
「よろしくお願いします」
父親も頷く。
「娘をお願いします」
「はい」
アキラは頭を下げた。
こうして――
結界Fを持つサトミが、アキラたちのパーティーに加わった。
そして翌日から。
アキラの家には、また1人。
新しい住人が増えることになった。




