第33話「本物の魔法の杖」
翌朝。
アキラは、机の上に置いていた椿の杖を手に取った。
「おお……」
昨日、黄色い魔石を無理やり埋め込んだ部分を見て、アキラが声を漏らす。
魔石の周囲にあった椿の木が、ほんの少しだけ成長していた。
昨日は明らかに「穴に魔石を押し込んだ」状態だった。
それが今では違う。
木が魔石を包み込むように成長し、完全に一体化している。
「すごい……」
隣からユウが覗き込む。
「だからキッチンシートに水つけて巻いたのね」
「そういうこと」
アキラは頷いた。
「木が生きているうちに、魔石と一体化させたかったんだ」
「じゃあ、本当に杖になったんだ」
「たぶんな」
アキラは杖をユウに渡した。
「魔力、流してみろ」
「私?」
「昨日からずっと楽しみにしてただろ」
「うん!」
ユウは嬉しそうに杖を握った。
そして目を閉じる。
「……」
しばらく待つ。
「……どう?」
「分からない」
「魔力を流せ」
「それが分からないんだって!」
ユウが困った顔をする。
アキラは少し考えた。
「じゃあ、詠唱してみろ」
「詠唱?」
「イメージを固定するんだ。自分が何をしたいのか、言葉にすることで魔力を集中させる」
「なるほど……」
ユウの表情が変わった。
そして杖を両手で握る。
「……我が身に宿りし雷の力よ……」
アキラが固まった。
「……」
ユウは続ける。
「天空を駆けし雷鳴よ! 悠久の時を超え、今ここに集いし魔力を我が杖に集約せよ!」
「……」
「その力をもって、我が眼前に立ちはだかる全ての敵を――」
「おい」
「何?」
「長い」
「今いいところだから!」
ユウは顔を赤くしながらも続ける。
「轟け! 雷帝の裁き!」
その瞬間だった。
バチッ!
黄色い魔石が光った。
「え?」
次の瞬間――
バリバリバリッ!
「きゃああああ!」
杖から凄まじい電撃が走った。
だが、電撃は杖先だけから出たわけではなかった。
椿の木を通った電気が、そのままユウの手へ流れ込んだ。
「いっ……!」
ユウの腕が跳ねる。
電撃は腕から身体へ走り、足元へ抜けていく。
「ユウ!」
筋肉が硬直して、ユウの指が杖から離れない。
「は、離れない!」
「まずい!」
アキラは慌ててユウの手を叩いた。
「離せ!」
パンッ!
ユウの手から杖が落ちる。
電撃が止まった。
「はぁ……はぁ……」
ユウはその場にしゃがみ込んだ。
「死ぬかと思った……」
「俺もだよ!」
アキラは落ちた杖を拾い上げる。
「ちょい待ち」
工具箱を開ける。
中から取り出したのは、絶縁テープだった。
「これでいい」
アキラは魔石と握りの部分を繋ぐ箇所に、絶縁テープを何重にも巻いていく。
「これなら直接手に電気が流れにくくなるはずだ」
「最初からやってよ……」
「俺も初めてだったんだよ」
アキラは再び杖を握る。
「今度は俺が試す」
「大丈夫?」
「たぶんな」
アキラは魔力を杖へ流した。
その瞬間――
バリバリバリバリッ!
「うおっ!」
杖の先端から、凄まじい電撃が飛び出した。
一直線に走った雷撃は、庭の塀に命中する。
ドンッ!
「うわっ!」
塀の表面が弾けた。
煙が上がる。
2人は呆然と塀を見る。
「……」
「……」
ユウがゆっくり口を開いた。
「本物だね」
「ああ」
アキラは杖を見つめた。
「本物の魔法の杖だ」
そしてアキラは、ふとスマートフォンを取り出した。
LINEを開く。
昨日の特殊ギフトグループのメッセージを確認する。
その中に、昨日の「結界F」の情報があった。
「なあユウ」
「何?」
「こいつの家、知ってるか?」
アキラがスマートフォンの画面を見せる。
「ああ」
ユウはすぐに答えた。
「桜井君の家ね」
「知ってるのか?」
「学校の近くだよ」
「なんで分かる?」
「いつも野外学習の時にさ」
ユウが笑う。
「ここで解散してくれよーって叫んでたから、みんな知ってる」
「なるほどな」
アキラは頷いた。
「じゃあ、行くぞ」
「どこに?」
「桜井の家」
「なんで?」
アキラはニヤリと笑った。
「そいつの姉貴が、結界ギフトを持ってる」
「おお!」
ユウも立ち上がった。
「結界F!」
「ああ。絶対に確保する」
2人は急いで装備を整えた。
アキラはミスリルの剣。
ユウはオリハルコンの槍。
そしてレッドホットは――
「キュー」
ポンッ。
ユウが頭に乗せる。
「よし」
準備完了。
アキラは玄関を開けた。
「行くぞ」
「うん!」
レットを頭に乗せたユウとともに、2人は家を出た。
目的地は、学校の近く。
結界Fを持つ女性がいる家。
人類が生き残るために必要になるかもしれない、とんでもない能力。
その持ち主を――
アキラは仲間にするつもりだった。




