第32話「人類の反撃とテレパシーE」
夜。
アキラとユウは、並んでテレビを見ていた。
ニュースでは、相変わらず魔物の被害が報道されている。
だが、数日前までとは明らかに違っていた。
「……なんか、すごい勢いで変わってない?」
ユウがテレビを見ながら呟く。
「だな」
画面には、大きな工事現場が映っていた。
巨大なコンクリート製の壁。
その向こう側には、避難施設や物資倉庫、自衛隊の車両が並んでいる。
『こちらは県庁所在地に建設予定の、大規模防衛拠点です』
アナウンサーが説明する。
『各都道府県では、魔物の侵入を防ぐため、県庁所在地など人口の集中する地域を中心に、巨大な城壁を建設する計画が進められています』
別の映像に切り替わる。
重機が動き、巨大な基礎を作っている。
さらに別の場所では、自衛隊員が魔物と戦っていた。
銃撃。
爆発。
そして、倒れた魔物の死体から魔石を回収している。
『自衛隊による魔物討伐も本格化しています。また、一定の条件を満たした民間人を登録制の討伐師として認め、魔物討伐に参加してもらう制度も各地で始まっています』
「討伐師……」
ユウが呟く。
「ゲームみたいだね」
「まあ、ゲームが現実になったからな」
アキラが苦笑する。
画面には、今度は魔石買取所が映った。
『こちらでは、討伐された魔物から回収された魔石を買い取っています』
「もう魔石の買取所まであるの?」
「早いな……」
アキラも少し驚いていた。
たった数日。
それなのに、人類はすでに魔物を倒し、魔石を回収し、それを買い取る仕組みまで作り始めている。
ゲームの攻略情報を知っている人間だけではない。
社会そのものが、急速に変化している。
しかし――
『ただし、現在完成している防衛拠点は全体計画の約2割程度にとどまっており、多くはまだ構想、設計段階です』
「2割か……」
アキラが呟いた。
画面には、日本各地の地図が表示される。
赤い点が大都市。
そこを囲うように、巨大な城壁計画が表示されていた。
「俺たちのところは?」
ユウが尋ねる。
アキラは地図を見て、眉をひそめた。
「都城市は……ないな」
「え?」
「県庁所在地じゃないからな」
都城市。
周囲を山々に囲まれた盆地。
人口はそれなりにある。
だが、巨大な城壁を建設するための予算が優先的に回ってくる場所ではなかった。
「じゃあ、こっちはどうするの?」
「たぶん、自力だな」
「自力……」
ユウの顔が少し曇る。
その時、テレビでは別のニュースが流れ始めた。
『各自治体では、既存施設を利用した避難拠点の整備も進めています』
映像には文化センターが映る。
周囲には高い有刺鉄線。
さらに電気柵まで設置されている。
『避難施設となる文化センターなどでは、魔物の侵入を防ぐため、有刺鉄線や電気柵などによる防護設備が設置されています』
「ちゃんと考えてるんだ」
ユウが言った。
さらに映像が切り替わる。
大きな神社。
その隣に広がる公園。
そこにも有刺鉄線が張り巡らされていた。
『また、避難拠点周辺では食料生産を確保するため、神社や公園などの空き地を利用して、田畑を作る計画も進められています』
「田んぼまで作るんだ」
「食料が止まったら終わりだからな」
アキラは真剣な顔で画面を見つめた。
ゲームのように、倒した魔物から食料が落ちるわけではない。
現実には、人間が食べる物を人間が作らなければならない。
魔物との戦いだけではない。
生きていくための仕組みそのものを、もう1度作らなければならないのだ。
その頃。
スマートフォンが鳴った。
「ん?」
ユウがグループチャットを開く。
特殊ギフトの一覧に、新しい名前が追加されていた。
『テレパシーE』
「テレパシー!?」
ユウが目を輝かせる。
「おぉ!」
アキラもスマートフォンを覗き込む。
「これはすごいな」
「珍しいの?」
「かなり珍しい」
「何ができるの?」
「たぶん、思念を送ったり受け取ったりする能力だ」
「電話いらないじゃん!」
「まだEだからな。どこまでできるか分からん」
アキラは興味深そうに画面を見る。
テレパシー。
ゲーム内では、それほど目立つ能力ではなかった。
だが、現実世界では違う。
遠距離で意思疎通ができるなら、魔物との戦闘でも、救助活動でも、偵察でも使える。
しかも――
「これ、鍛えたら化けるかもしれないな」
「また仲間候補?」
「ああ」
その頃、一般グループLINEは相変わらずだった。
『これ魔物?』
『知らん』
『誰か分かる?』
『明後日なら分かる』
『なんで明後日?』
『いや、今調べてる』
『じゃあ今日教えろよ』
『今日は無理』
『なんで?』
『知らん』
『誰か飯ある?』
『ない』
『俺もない』
『魔石食える?』
『食った人いる?』
『知らん』
『誰か答えて』
『既読47』
「……相変わらずだな」
アキラはスマートフォンを見ながらため息をついた。
そして、新しく入力する。
『ヒント4』
一瞬、グループが静かになる。
『ギフトは、やればやるほどレベルが上がる』
送信。
すぐに返信が飛んできた。
『え?』
『ギフトにもレベルあるの?』
『Fって弱いってこと?』
『じゃあ俺のダッシュFも鍛えれば強くなる?』
『防御Fは?』
『透視Fは?』
『念力Fは?』
『死霊Fは?』
『テレパシーEって強い?』
質問が一気に増えていく。
ユウが笑った。
「また始まった」
「これでいいんだよ」
アキラはスマートフォンを置いた。
「気づいた奴から、自分のギフトを鍛えればいい」
人類は、まだ始まったばかりだった。
だが――
確実に変わり始めている。
そしてその中には、まだ誰も価値に気づいていないギフトを持つ者たちもいる。
アキラは、その可能性を探し始めていた。




