第31話「本物の魔法の杖」
「ただいま……」
アキラが右足を引きずりながら玄関を開けると、ユウが振り返った。
「おかえり……って、どうしたの、その足!」
「オークにやられた」
「オーク!?」
「まあ、倒したから大丈夫。回復してくれ」
アキラが椅子に腰を下ろし、右太ももを見せる。
ユウは慌てて手をかざした。
「回復~!」
白い光がアキラの右足を包む。
ズキズキしていた痛みが、嘘のように消えていった。
「ふぅ……助かった」
「もう! 外で何と戦ってるのか、ちゃんと教えてよ!」
「いや、俺も戦ってる最中は説明できないからな」
「そういう問題じゃない!」
ユウが頬を膨らませる。
アキラは苦笑すると、庭へ出た。
「さて……」
庭に植えられている椿の木を見上げる。
「これ、使えるな」
アキラは枝を何本か選び、剪定ばさみで切り落とした。
「何を作ってるの?」
ユウが後ろからついてくる。
「杖だよ」
「杖?」
「ポッターの杖。本物の杖」
その瞬間、ユウの目が大きく輝いた。
「えっ!?」
ユウは大のハレー・ポッターファンだった。
「本物って……魔法使えるの!?」
「まだ分からん」
「ええっ!」
アキラは切った椿の枝を駐車スペースへ持っていく。
そこでナイフや彫刻刀を使い、枝の表面を丁寧に削り始めた。
「何それ?」
「椿の杖」
「椿?」
「中々丈夫だぞ、これは」
削りながら、アキラは椿の木を見上げる。
「親父が椿油を取りたいって言って植えた木なんだ。でも結局、ほとんど放置されてる」
「そんな木が魔法の杖になるの?」
「素材としては悪くない」
アキラは枝の太さと長さを確認しながら、握りやすい形に整えていく。
そして、ふと思い出したように黄色い魔石を取り出した。
「これを装備する」
「黄色い魔石?」
「さっきのオークから出たやつだ」
アキラは椿の杖の握り部分を彫刻刀で慎重に削った。
少しずつ。
少しずつ。
黄色い魔石を当てながら、穴の大きさを確認する。
「魔石より、ほんの少しだけ小さくする」
「なんで?」
「無理やり押し込むためだ」
「無理やり!?」
「その方が固定される」
穴が完成すると、アキラは黄色い魔石を握った。
「よし……」
両手に力を込める。
「せぇいっ!」
グッ!
魔石を穴へ押し込む。
ギギギッ。
椿の枝が軋む。
それでもアキラは力を緩めない。
「入れ!」
グッ!
さらに押し込む。
そして――
ズンッ!
黄色い魔石が、穴の中へ完全に収まった。
「入った!」
「本当に力づく……」
ユウが呆れた顔をする。
アキラは杖を持ち上げた。
だが、そこで終わりではなかった。
「まだだ」
「まだ?」
アキラはキッチンから持ってきたシートを取り出した。
それを水で湿らせる。
そして、椿の枝の根元部分に丁寧に巻きつけた。
「何してるの?」
「乾燥防止して少しだけ成長させる」
「……杖って、そんなことするの?」
「魔石をより固定する」
「なるほど!」
ユウが叫ぶ。
アキラは気にせず、湿らせたキッチンシートをしっかり巻きつける。
「この状態で部屋に持っていく」
「完成は?」
「明日」
「明日!?」
ユウは目を輝かせながら、まだ湿ったキッチンシートに包まれた椿の杖を見る。
「明日になったら……本当に魔法が使えるの?」
アキラは黄色い魔石を見つめた。
「それを確かめるんだよ」
「楽しみ!」
ユウは完全に食いついていた。
アキラは杖を大事そうに抱え、家の中へ運んでいく。
ゲームの中では当たり前だった魔法。
だが今、この世界にはゲームのデータが現実になっている。
ならば――
魔法使いがいても、おかしくない。
そしてその可能性を確かめるための最初の一歩が、庭の椿の枝から始まろうとしていた。




