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アゲダマ戦記:ゲームが現実に降臨して世界のルールが急変したお話。  作者: 忍絵 奉公


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第3話 レベル3?


「こいつら、なんなん?」

ゴブリンの死体を見下ろしながら、近所の田中さんが呟いた。

田中さんは50代くらいの男性で、アキラの家から少し離れた場所に住んでいる。

ついさっきまで普通の夜だった。

それが突然、街に怪物が現れた。

しかも目の前には、その怪物の死体が3体。

「ゴブリンだよ」

アキラは息を整えながら答えた。

「ゴブリン?」

「うん。さっき、ゲームのアゲダマ戦記が現実世界にダウンロードしたってさ」

「は?」

田中さんが眉をひそめる。

「アゲダマ戦記?」

「知ってる?」

「あぁ。昔、ちょっとやったことある」

「なら、わかるでしょ」

アキラは苦笑した。

「レベル上がった?」

「……さっき、レベルアップって表示が出たよ」

田中さんは自分の身体を見回した。

「本当に?」

「うん」

アキラは地面に落ちていた緑色の魔石を拾った。

小さな宝石のような石だ。

直径は約2cm。

手の中で、かすかに緑色の光を放っている。

「これ、魔石」

「魔石?」

「ゲームと同じなら、いろいろ使える」

アキラは魔石を田中さんに向かって軽く投げた。

「ほら。1個あげるよ」

「え?」

田中さんが慌てて両手で受け取る。

「いいのか?」

「いいよ。俺、もう2個持ってるし」

実際には、ゴブリンから落ちた魔石は3個。

そのうちの1個だった。

「まぁ、無理するなよ」

アキラはそう言うと、柳葉包丁を持ったまま自宅へ戻っていく。

「え? おい、アキラ君!」

「寝るわ」

「こんな状況で寝るのかよ!」

「だって眠いし」

そう言って、アキラは家の中へ入った。

ドアを閉める。

静かになった。

「……」

アキラはしばらく玄関に立ったまま、自分の手を見つめた。

そして、小さく呟いた。

「なんで、あんなに弱かったんだ?」

ゲームでは、レベル255。

しかもトップクラス。

ゴブリンなど、指先で倒せる。

少なくとも、アキラはそう思っていた。

ところが現実では。

3匹相手に苦戦した。

何度も木の棒で殴られた。

身体が思ったように動かなかった。

「おかしい……」

アキラは自分の部屋へ戻った。

パソコンのモニターは真っ暗。

だが、スマホにはゲームのような画面が表示されている。

「ステータスオープン」

すると。

スマホに画面が現れた。

《ステータス》

名前:アキラ

年齢:19

レベル:3

速筋:12

遅筋:11

打たれ強さ:13

魔力:9

「……」

アキラは無言になった。

もう一度見る。

「レベル……3?」

指で画面を触ってみる。

消えない。

「なんだ? このしょぼいステータスは?」

速筋12。

遅筋11。

打たれ強さ13。

魔力9。

まるで、ゲームを始めたばかりの初心者だ。

「ちょっと待て!」

アキラは画面を指差した。

「レベル3って!」

声が部屋に響く。

「257じゃないのかよ!」

当然、誰も答えない。

「俺、ゲームでは255だったんだぞ!」

さらに画面を見る。

そして、ある項目に気づいた。

《ギフト:鑑定》

「……ギフト?」

アキラは眉をひそめる。

「ギフト鑑定」

画面が変化した。

《鑑定》

対象の情報を読み取ることができます。

「鑑定があるからレベルも255じゃないのかよ!」

自分で言って、自分で虚しくなった。

「いや……待て」

アキラは椅子に座った。

ゲームアカウントが、そのまま現実に引き継がれたわけではない。

装備もない。

レベルも違う。

スキルも違う。

ただ。

ゲームをやり込んだ記憶だけは残っている。

「つまり……」

アキラは天井を見上げた。

「1から鍛えなきゃなんないんだ」

その言葉が妙に重かった。

しかし。

しばらくすると、アキラは笑った。

「まあ、いいか」

ゲームでもそうだった。

最初は誰でも弱い。

それでも、効率のいい狩場を知っている人間と、何も知らない人間では成長速度が違う。

アキラには知識がある。

魔物の出現場所。

弱点。

効率のいい狩り方。

魔石の使い方。

そして、ゲームには存在しなかった「現実」という要素。

「だったら、やることは決まってる」

アキラは立ち上がった。

その時。

ふと、部屋の壁に飾られている写真が目に入った。

幼い頃のアキラ。

その隣に立っている父親。

そして母親。

母親は、アキラがまだ小さい頃に交通事故で亡くなった。

それ以来、父親と2人で暮らしてきた。

もっとも。

父親は、ほとんど家に帰ってこなかった。

大手レストラングループの社長。

それがアキラの父親だった。

もともとは一流の料理人。

かつてはミシュランで3つ星を獲得した店の料理長まで務めていた。

その後、独立。

自分の店を立ち上げると、次々と新しい店舗を展開していった。

そして成功した。

今では全国に店を持つ大手レストラングループの社長だ。

家に帰らない父。

自由に使える金。

誰にも叱られない生活。

だからアキラは、ゲームにのめり込んだ。

課金した。

ひたすらプレイした。

いつしか、学校にもほとんど行かなくなった。

そして19歳。

廃課金ゲーマー。

それがアキラだった。

「……まあ」

アキラは写真を見ながら笑った。

「今さら人生をやり直せって言われてもな」

窓の外を見る。

街の向こうから、遠くで人の叫び声が聞こえる。

そして。

別の場所からも。

「グギィィィィ!」

ゴブリンの叫び声。

アキラは笑みを浮かべた。

「レベル3か」

ならば。

上げればいい。

ゲームと同じように。

効率よく。

最短で。

誰よりも早く。

「明日から、本気でレベル上げだ」

アキラは柳葉包丁を机の上に置いた。

そして、まだ知らなかった。

この世界では。

レベルを上げるだけでは、生き残れないことを。


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