第26話「クラスLINEがうるさい」
「……なんか、うるさくない?」
夕食の準備をしていたユウが、スマートフォンを見た。
ピコン。
ピコン。
ピコン。
ピコンピコンピコン。
「うるさいな……」
アキラもソファから顔を上げた。
「何事だ?」
ユウがスマートフォンを手に取る。
「……あ」
画面には、クラスのグループLINEから大量の通知が届いていた。
「どうした?」
「昨日の写真……」
「写真?」
「ほら、服屋さんで撮ったやつ」
「ああ」
アキラとユウ、そしてレットが写っている記念写真。
ユウが昨日、何気なくクラスのグループチャットに投稿していたのだ。
そして、それを見たクラスメイトたちが大騒ぎしていた。
《となりの洗濯板だれ?》
《イケメン!!》
《え、誰!?》
《抱かれてもいい!!》
《不良発見!》
《その服ヤバいwww》
《肩の人形かわいい!》
《ほしい!》
《なんのキャラ?》
《ていうかユウ、その男誰!?》
《彼氏?》
《彼氏なの?》
《公認?》
《結婚した?》
「……」
アキラが無言になる。
「……載せるなよ……」
「記念写真……」
「いや、そういう問題じゃないだろ」
「だって、みんなに見せようと思って」
「よりによってクラスLINEに……」
アキラが頭を抱える。
その隣でユウが画面を見ながら笑った。
「すごい反応だね」
「他人事みたいに言うなよ」
「だって面白いんだもん」
アキラは画面を覗き込む。
まだ通知が増えている。
《洗濯板って何www》
《腹筋すごくない?》
《ユウ、説明しろ》
《あの人、何者?》
《アキラじゃね?》
「……バレた」
「そりゃバレるよ」
「写真載せた本人が言うな」
アキラがため息をつく。
すると、ユウが何気なく言った。
「でも……」
「ん?」
「益々、公認カップルだね」
ニヤッ。
アキラも笑った。
「そうだな」
次の瞬間。
ヒュンッ!
「危なっ!」
菜箸が飛んできた。
アキラは反射的に頭を下げる。
菜箸は後ろの壁にカツンと当たった。
「なんで投げるんだよ!」
「調子に乗るから!」
「事実だろ!」
「違います!」
「はいはい」
アキラは笑いながらスマートフォンを取り出した。
そしてクラスLINEに文字を打ち込む。
《ヒント1》
《まず、アゲダマ戦記をダウンロードしてみよう》
アキラはゲームのダウンロードリンクを貼った。
すると、一気に返信が来た。
《アゲダマ戦記?》
《何それ?》
《ゲーム?》
《名前は聞いたことある》
《大帝?》
《アゲダマって?》
《アゲダマってどんな意味ですか?》
《そもそも何のゲーム?》
《今さらゲームやるの?》
《それ入れたら何かわかる?》
「……」
アキラは画面を見つめた。
「質問だらけだな」
「アキラがリンク貼ったからでしょ」
「まあ、そうなんだけどな」
アキラは少し考えた。
ゲームを知らない人間に説明するなら、まずゲームそのものを知ってもらうしかない。
「とりあえず、やってみれば分かる」
《大帝って誰?》
《アゲダマって何?》
《なんで今このゲーム?》
《学校で説明会とかないの?》
「説明会……」
アキラは苦笑した。
そんなものをする必要があるとは思っていなかった。
なにしろ、つい数日前までアゲダマ戦記は、ただの大人気オンラインゲームだったのだから。
それが今では、世界そのものになっている。
「まずはゲームを触ってもらうか」
アキラはスマートフォンを置いた。
その横では、ユウが料理を続けていた。
菜箸を片手に、時々スマートフォンを覗く。
また通知。
ピコン。
ユウは画面を見る。
《肩のふわふわ、かわいい》
《ユウ、その子ちょうだい》
《レットって何?》
《あの丸いやつペット?》
ユウは思わず笑った。
「レット、人気者だね」
「まあ、あいつは可愛いからな」
アキラがレットを見る。
レットはソファの上で丸くなりながら、
「キュー」
と鳴いた。
その様子を見て、ユウはまた微笑む。
そしてスマートフォンを置くと、料理に戻った。
外の世界では、魔物が徘徊している。
街は壊れ、人々は避難している。
それでも、この家の中には。
料理の匂いと、レットの鳴き声と、絶え間なく鳴り続けるLINEの通知があった。




