第23話「スカジャンと記念撮影」
「よし、試着してみよう!」
アキラとユウは、それぞれ選んだスカジャンを持って試着室へ入った。
しばらくして。
「どう?」
カーテンが開いた。
ユウが出てくる。
背中には7匹の子猫がじゃれ合う刺繍。
「かわいい!」
アキラが笑う。
「でしょ?」
「かなり似合ってる」
「アキラは?」
「俺はこれだ」
アキラも試着室から出てくる。
巨大な富士山。
荒々しい波。
桜。
まさに外国人が想像する「ザ・日本」という感じのスカジャンだった。
しかし。
「……」
ユウがアキラを見る。
「……」
アキラを見る。
「何?」
「シャツは?」
「ない」
「なんで?」
アキラはスカジャンの前を開いたまま、胸を張る。
「ロックだろ」
「……」
スカジャンの下は裸。
鍛え上げられた腹筋、いわゆるシックスパックが丸見えだった。
「いや、普通シャツ着るでしょ」
「ロックだから」
「意味分からない」
「これが俺のスタイルだ」
アキラは鏡の前でポーズを取る。
「どうだ?」
「……まあ、似合ってるけど」
ユウは呆れながらも笑った。
そのとき、肩の上に乗っていたレットが、
「キュー!」
と鳴いた。
「お前も気に入ったか?」
ポムポム改めレッドホット。
略してレット。
ふわふわのクリーム色の身体で、アキラの肩にちょこんと乗っている。
「よし!」
アキラがスマートフォンを取り出した。
「記念撮影しよう!」
「今?」
「今だ」
アキラはスマートフォンを棚の上に置く。
ライトを点ける。
そしてタイマーを設定。
「10秒!」
「え?」
アキラがユウの隣へ走る。
レットも肩に乗ったまま。
ピピピピ。
「はい!」
パシャッ!
3人の写真が撮れた。
「おお!」
アキラが確認する。
「いいじゃん!」
「見せて」
ユウも覗き込む。
そこには、富士山と波のスカジャンを着たアキラ。
7匹の子猫スカジャンを着たユウ。
そしてアキラの肩に乗ったレット。
奇妙な3人の姿が写っていた。
「私も撮りたい!」
ユウも自分のスマートフォンを取り出す。
同じようにライトを点ける。
棚に固定。
タイマー。
「10秒!」
2人とレットが並ぶ。
パシャッ!
「こっちもいい!」
ユウが嬉しそうに笑った。
「よし」
アキラは自分のスカジャンを見た。
「ここから改造する」
「改造?」
「ああ」
アキラは連金の指輪に魔力を流した。
スカジャンの表面が淡く光る。
「何にするの?」
「外側をスパッタシートゴールドアルファー」
「……何それ?」
「耐火用の素材だ」
さらに魔力を流す。
「内側はセラミックブランケット」
「それも知らない」
「非常に丈夫で、220度まで耐えられる旭化成の素材だよ」
ユウが目を丸くする。
「なんでも知ってるんだね」
アキラは少し得意そうに笑った。
「ああ」
そして胸を張る。
「俺、ニートだからな」
「そこ威張るところ?」
「ゲームのために調べるんだよ。いろいろと」
「……なるほど」
ユウは呆れながらも納得してしまった。
ゲームの攻略。
装備。
素材。
武器。
モンスター。
アキラはゲームに必要だと思ったことなら、徹底的に調べるタイプだった。
その知識が今、現実世界で役立っている。
「よし、これでかなり丈夫になった」
アキラは満足そうにスカジャンを眺めた。
「次はユウのもやる?」
「お願い」
ユウの猫スカジャンも同じように改造する。
これで2人の新しい装備が完成した。
「じゃあ、行こう」
2人は予備の服を袋に入れた。
「このカート、どうする?」
「1階に戻しておこう」
大量の荷物を運んできたショッピングカートを1階のスーパーへ戻す。
店内には、すでに生ものはほとんど残っていなかった。
肉。
魚。
野菜。
冷蔵品。
魔物騒ぎの影響で片付けられたのか、棚は空になっている。
「食料はまだ家にあるから、今はいいな」
「うん」
袋を手に持つ。
そして、2人とレットは再びケンチキの割れた窓へ向かった。
「よし」
アキラが外へ出る。
「次はホームセンターだ」
外へ出ると、街は静まり返っていた。
普段なら車が走り、人が歩き、駅前には多くの人がいる時間。
しかし今は、ほとんど音がない。
遠くに倒れた看板。
路上に放置された車。
割れた窓。
誰もいない歩道。
そして。
「グオオオオオオオオ……!」
遠くから、魔物の雄叫びが響いた。
ユウが槍を握り直す。
アキラも柳葉包丁へ手を添える。
「警戒して行こう」
「うん」
ホームセンターまでは歩いて20分ほど。
たった20分。
それなのに、今の世界では、とてつもなく長い距離に感じられた。
レットがアキラの肩の上で周囲を見回す。
「キュー……」
「大丈夫だ」
アキラがレットの頭を軽く撫でる。
「3人なら行ける」
2人と1匹は、静まり返った街を歩き始めた。
目的地はホームセンター。
そこには、これからの生活に必要な大量の素材が眠っている。
しかし。
その道の先に、何が待っているのか。
まだ誰も知らなかった。




