第22話「ポムポムの名前」
「……疲れた」
店員スペースをめちゃくちゃにしたアキラは、ようやくポムポムを捕まえることに成功した。
ポムポムは、アキラの肩の上にちょこんと乗っている。
さっきまであれほど逃げ回っていたのが嘘のように、おとなしい。
「……」
アキラが横目で見る。
ポムポムもアキラを見る。
そして。
ニコッ。
「懐いてる……」
ユウが戻ってきて、ポムポムを見た。
「本当に懐いたね」
「だろ?」
アキラは得意そうに笑う。
しかし、手のひらを見ると、まだ血が出ている。
「ユウ」
「何?」
「治療してくれ」
アキラが手のひらを差し出す。
「もう……」
ユウはため息をつきながら、手を包むように触れた。
「回復~」
白い光が手のひらを包む。
傷口がゆっくりと閉じていく。
「よし」
アキラは手を握ったり開いたりする。
「完全に治った」
そして肩の上を見る。
ポムポムは、ちょこんと座っている。
クリーム色のふわふわした毛。
少し垂れた目。
丸っこい身体。
どう見ても、とてつもなくかわいい。
「かわいいね。ポムポムって」
ユウが優しく撫でる。
「キュー」
ポムポムが嬉しそうな声を出した。
さらに撫でる。
ふわふわ。
「うわ……触り心地最高」
ユウの顔が緩む。
「これはかわいい……」
アキラもポムポムを見る。
「よし!」
突然、アキラが立ち上がった。
「名前を付けよう!」
「もうポムポムでいいんじゃない?」
「いや、正式な名前が必要だ」
ポムポムが首を傾げる。
「色はクリーム色」
アキラは真剣に考え始めた。
「目は少し垂れ目」
ポムポムが瞬きをする。
「毛はふわふわ」
「うん」
「そして、抱き心地が良さそう」
ポムポムの顔が少し引きつった。
「よし! 決めた!」
アキラが指を突き出す。
「お前の名前は……」
タメを作る。
「抱き枕だ!」
「……」
「……」
ユウとポムポムが同時に嫌な顔をした。
「違うか!」
「違うよ!」
ポムポムも、
「キュー……」
と、明らかに不満そうな声を出す。
「じゃあ……」
アキラは再び考える。
「富岳だ!」
「それってスカジャン?」
ユウが呆れる。
「ほら、さっきの富士山スカジャン!」
ポムポムも、
「……」
完全に嫌そうな顔をしている。
「これもダメか」
「もっとかわいい名前にしてよ」
ユウが言う。
「例えば……ピョコタンとか」
「キュー……」
ポムポムが微妙な顔をした。
「え? 嫌?」
ポムポムが、
コクコク。
と頷く。
「分かった!」
アキラは真剣な顔になる。
「じゃあ……」
一呼吸。
「ピョンコタン!」
「……」
「…………」
ポムポムが深いため息をついた。
「キュゥ……」
「そこまで嫌か!?」
ユウが笑い出す。
「完全に呆れてるよ」
ポムポムは肩の上で目を細めた。
「じゃあ、何がいいんだ?」
ポムポムが店内を見回す。
そして。
ポヨン!
突然、アキラの肩から飛び降りた。
「お?」
ポムポムが向かった先。
そこには黒いライダースジャケットが掛かっていた。
ポムポムはライダースに飛びつく。
ふわっ。
そのままジャケットの上に乗った。
「……」
アキラが目を丸くする。
「かっこいい名前がいいのか?」
ポムポムが、コクコクと頷いた。
「なるほど」
アキラは腕を組む。
「かわいい名前じゃなくて、かっこいい名前……」
ユウも考える。
「じゃあ、何かいい名前ある?」
アキラは店内を見回した。
そして、壁に貼られているポスターを見る。
そこには、モトリークルーのロゴ。
アキラがニヤリと笑った。
「決めた!」
ポムポムが顔を上げる。
「モトリークルーの曲から取ろう」
「曲?」
「そうだ」
アキラはポムポムを見る。
「レッドホット!」
ポムポムの目が少し大きくなる。
「略して……」
アキラが指を立てる。
「レット!」
「……」
ポムポムが固まる。
そして。
ニコッ。
「キュー!」
ポヨン!
嬉しそうに飛び跳ねた。
「決まった!」
アキラが笑う。
「お前の名前は、レッドホットな!」
「キュー!」
ポヨン!
ポムポム改め、レッドホット。
略してレットは、嬉しそうにアキラの肩へ飛び乗った。
「よろしくな、レット」
「キュー!」
ユウが笑う。
「やっと決まったね」
アキラも満足そうに頷いた。
「かっこいい名前だろ?」
レットはアキラの肩の上で、嬉しそうに身体を揺らしていた。
その横では、巨大な富士山と波が描かれたスカジャン。
そして7匹の子猫がじゃれ合うスカジャン。
世界が崩壊した後とは思えないほど、妙に楽しそうな買い物風景になっていた。




