第21話「ポムラをテイムせよ!」
「ガタンッ!」
店の奥から、また音がした。
アキラとユウは顔を見合わせた。
「……店員さんのスペースかな?」
「分からない」
アキラはミスリルの柳葉包丁に手を添えた。
「慎重に行こう」
2人はゆっくりと店の奥へ進んでいく。
店員用のスペース。
そこには、商品を置く棚や段ボール、事務用品などが乱雑に置かれていた。
そして、その奥から。
ポヨン。
「……?」
ポヨン。
何かが飛び跳ねた。
丸っこい。
ふわふわしている。
小さな真っ白の毛玉のような身体。
ポヨン。
また飛び跳ねる。
ユウの顔がぱっと明るくなった。
「かわい――」
言いかけて、止まった。
「……」
以前のスライム事件が頭をよぎった。
かわいい。
そう思った直後に服を溶かされた。
「……いや」
ユウは首を横に振る。
「もう言わない」
ところが。
「かわいい……」
アキラが満面の笑みで近づいていく。
「ちょっと待って!」
ユウが慌てて止める。
「何だ?」
「前にスライムで同じことしたよね!」
「あれはスライムだ」
「でも、これも魔物かもしれないよ!」
「違う」
アキラは確信していた。
「こいつはポムポムだ」
「ポムポム?」
「あぁ」
アキラは嬉しそうに頷く。
「精霊だよ」
ポヨン。
ポムポムは何事もなかったかのように跳ねている。
「精霊……?」
「こいつ、テイムしたら大分いいぞ」
「テイムできるの?」
「できる」
アキラは刀を少しだけ抜いた。
「……何してるの?」
「テイム」
「いや、だから何してるの?」
アキラは自分の手のひらを刃に当てた。
スッ。
「痛っ!」
手のひらから血が流れる。
「何してんの!?」
「テイムだよ」
「見れば分かる!」
アキラは流れた血を見て満足そうに頷いた。
「ポムポムに血をかけたらテイムできるんだ」
「なんで血なの!?」
「ゲームの仕様」
「現実でも!?」
「たぶん」
「たぶん!?」
アキラは血の流れる手をポムポムへ向けた。
「よし!」
ブンッ!
血が飛んだ。
しかし。
ポムン。
ポムポムが跳ねる。
血は空中を通過し、壁にベチャッと付着した。
「……」
「……」
アキラが壁を見る。
ポムポムを見る。
「もう1回」
ブンッ!
ポヨン!
また外れた。
「……」
アキラの眉がピクリと動く。
「小癪な!」
「何で本気になってるの!?」
アキラは店員スペースの狭い通路を走り始めた。
「待て!」
ポムン!
ポヨン!
ポムポムは軽やかに跳ねながら逃げる。
「そこだ!」
ブンッ!
また外れる。
バシャッ!
今度は棚に血が飛び散った。
「くそっ!」
「アキラ!」
ポムポムが棚の上へ跳ぶ。
アキラが追いかける。
ガシャーン!
段ボールが落ちる。
「待てぇ!」
ポヨン!
ポムポムが反対側へ跳ぶ。
「そっちか!」
ドン!
今度はアキラが棚にぶつかった。
「痛っ!」
「何やってるの……」
ユウは完全に呆れていた。
アキラはそれでも諦めない。
「こいつ……ゲームより回避性能が高い!」
「精霊って凄いね」
「感心してる場合じゃない!」
アキラは血の付いた手を振り回す。
ブンッ!
バシャッ!
壁に飛ぶ。
ブンッ!
バシャッ!
床に飛ぶ。
ブンッ!
ガシャーン!
今度は棚の商品が大量に落ちる。
ポムポムはその隙間を縫うように飛び跳ねていく。
「こいつ!」
「もういいんじゃない?」
ユウがため息をつく。
「テイムしたいんだ!」
「血、なくなるよ?」
「……」
アキラが手を見る。
確かにかなり血が出ている。
「そうだな」
「治療しよう」
「いや」
アキラはポムポムを睨む。
「あと1回」
「まだやるの!?」
ポムン。
ポムポムが跳ねる。
アキラも構える。
「今度こそ!」
「……」
ユウは無言でカートを押し始めた。
「え?」
「私、店に戻って服見てるね」
「待て! ユウ!」
ポヨン!
「お前も手伝え!」
「頑張ってねー」
ユウは店員スペースから出ていった。
「おい!」
アキラの声が店内に響く。
その後ろで。
ポヨン。
ポムポムが、楽しそうに跳ねていた。
「……絶対テイムしてやる」
アキラの戦いは、グリズリー戦よりも長くなりそう




