第20話「ザ・日本のスカジャン」
グリズリーを倒した2人は、巨大なショッピングカートを押しながら2階のフロアを進んでいた。
「次は服だ」
「さっきも服屋だったよね?」
「さっきはアクセサリー材料も見つけただろ」
「まあ……そうだけど」
アキラは看板を見つけた。
「モトリークルー」
「ここ?」
「ここだ」
店内へ入る。
そこには、普通の衣料品店とは明らかに違う服が並んでいた。
黒いライダースジャケット。
鋲のついたベスト。
チェーン。
ブーツ。
バイカー向けの革ジャン。
そして、不良やロック好きが好みそうな、派手なデザインの服ばかりだった。
「うわぁ……」
ユウが店内を見回す。
「凄いね」
「こういうのもゲームでは装備品としてあったな」
アキラは服を手に取っていく。
「これは重い」
「こっちは?」
「重い」
「これは?」
「もっと重い」
「……アキラ、何を探してるの?」
「なるべく軽い服」
「軽いの?」
ユウが首を傾げる。
「防御力、低いんじゃない?」
「大丈夫だ」
「本当に?」
「魔物相手に重要なのは、防御力だけじゃない」
アキラは真剣な顔で説明する。
「重い装備を着れば動きが鈍る。俺たちはまだレベルが低い。だったら、攻撃を食らわないことのほうが重要だ」
「なるほど」
「特にユウは槍だから、距離を取って戦う。軽いほうがいい」
「分かった」
ユウも服を探し始める。
そのとき、アキラの目に1着のスカジャンが飛び込んできた。
「おお!」
背中には巨大な富士山。
その周囲には桜。
さらに荒々しい波が描かれている。
どう見ても外国人が想像する「ザ・日本」だった。
しかも富士山は、実際よりもかなり大きく誇張されている。
「これいいな!」
アキラが手に取る。
「葛飾北斎っぽい波に、巨大な富士山、桜!」
「日本を全部乗せしたみたい」
「いいじゃないか!」
アキラは背中に当てて鏡を見る。
「俺、これ着る」
「似合うと思う」
「だろ?」
アキラは嬉しそうに笑った。
そしてユウのほうを見る。
「ユウは?」
「私はこれ」
ユウが手に取ったのは、淡い色のスカジャンだった。
背中には、なんと猫。
しかも1匹ではない。
2匹。
3匹。
4匹。
5匹。
6匹。
7匹。
かわいい子猫7匹が、じゃれ合っているデザインだった。
「……」
アキラが無言になる。
「どう?」
「お前……」
「何?」
「グリズリー倒した奴が着る服じゃないだろ」
「いいじゃん!」
ユウが笑う。
「かわいいし」
「いや、まあ……」
アキラは改めて猫を眺める。
7匹の子猫が尻尾を絡ませながら遊んでいる。
「……かわいいな」
「でしょ?」
「でも戦闘中にこれ着てたら、敵が油断するかもしれない」
「それ狙ってるの?」
「いや、今思いついた」
「絶対あと付けでしょ」
2人はそれぞれスカジャンをカートへ入れた。
続いてアキラは革パンのコーナーへ向かった。
「お、これいいな」
そこには黒い革パンが並んでいる。
その中の1本には、腿の部分に巨大な鯉が刺繍されていた。
「鯉だ」
「凄いね……」
「ユウ、これ」
「え?」
「なるべく軽いのを選べ」
ユウが何本か持ち上げる。
「これは?」
「重い」
「これは?」
「重い」
「これなら?」
「……まあまあ」
「革って全部重いんじゃない?」
「だから軽いのを探してるんだ」
ユウは真剣に服を選び始めた。
やがて2人分の服がカートに積まれていく。
アキラは自分の巨大な富士山スカジャンを見る。
ユウは7匹の子猫スカジャンを見る。
そして2人とも、少しだけ嬉しそうだった。
世界が変わってしまった。
街は荒れ果て、魔物が徘徊している。
それでも。
「新しい服って、なんか楽しいね」
ユウが言った。
「そうだな」
アキラも頷く。
「これから生き残るための装備だけど……」
スカジャンをカートへ入れる。
「格好いいほうがいい」
「うん!」
その瞬間。
店の奥から、ガタンッ、と大きな音がした。
2人が同時に振り向く。
「……」
「……」
アキラがミスリルの柳葉包丁に手をかける。
「まだ何かいるな」
ユウも槍を構えた。
かわいい子猫7匹のスカジャン。
ザ・日本のスカジャン。
そしてミスリルの柳葉包丁。
奇妙な2人の買い物は、まだ終わりそうになかった。




