第19話「ミスリル、強すぎる!」
「延髄が弱点だ!」
グリズリーの爪をかわしながら、アキラが叫んだ。
「延髄?」
「首の後ろだ! そこを攻撃しないと大ダメージを与えられない!」
グリズリーが再び両腕を振り回す。
ブンッ!
アキラは身体を低くしてかわした。
続けざまに反対側から巨大な爪が迫る。
「危ねぇ!」
紙一重で後ろへ飛ぶ。
床に爪が叩きつけられ、ガリガリと床材が削られた。
「正面からじゃ延髄を狙えない!」
アキラは叫んだ。
「挟み撃ちにしないと攻撃できないな!」
「どうするの!?」
「ユウ! 回り込んで、後頭部を突け!」
「分かった!」
ユウが走り出す。
グリズリーはユウを追おうとする。
「こっちだ!」
アキラが大声を出す。
グリズリーの視線がアキラに戻った。
「そうだ! 俺を見ろ!」
グリズリーが突進してくる。
ズドドドドッ!
「うおおおお!」
アキラは必死にかわす。
右。
左。
しゃがむ。
また右。
ゲームで何百回、何千回と見た攻撃パターンだった。
「分かる……!」
グリズリーの腕が振り下ろされる。
「次は右!」
アキラは横へ飛んだ。
ブンッ!
爪が空を切る。
「次!」
反対の腕が迫る。
「左!」
アキラは身体をひねってかわす。
そして、その瞬間。
「今だ!」
アキラはミスリルの柳葉包丁を抜いた。
グリズリーの右腕が、アキラを叩き潰そうと迫る。
「これで防ぐ!」
アキラは柳葉包丁を横に構えた。
ガキィン!
……とはならなかった。
スッ。
あまりにも簡単だった。
あまりにも、あっさりだった。
グリズリーの右腕が、肘から先ごと落ちた。
ボトン。
床に巨大な右手と吹き飛んだ血が転がる。
「…………」
「…………」
アキラとユウが同時に固まった。
「え?」
「え?」
2人の声が重なる。
アキラは自分の手にある柳葉包丁を見る。
そして床を見る。
「……切れた?」
ユウも目を丸くする。
「切れたね……」
「いや……」
アキラはグリズリーを見る。
「切れすぎじゃね?」
グリズリーが自分の右腕を見た。
一瞬、何が起こったのか分からなかったらしい。
次の瞬間。
「グギャアアアアアアアア!」
凄まじい咆哮がショッピングモールに響き渡った。
グリズリーが苦しみながら転げ回る。
「うわっ!」
「ユウ! 今だ!」
ユウは槍を構えた。
グリズリーの背後へ回る。
「後頭部!」
「分かってる!」
ユウが槍を突き出す。
ザクッ!
「え?」
槍は、首元へあまりにも簡単に突き刺さった。
ズブッ!
そのまま深く貫通する。
「……刺さった」
「いや、刺さりすぎだろ!」
グリズリーが身体を激しく振り回す。
ユウは槍を離して後ろへ飛んだ。
「延髄は!?」
「外れた!」
「じゃあ、もう1回!」
ユウは槍を握り直した。
グリズリーは床を転がりながら暴れている。
ドン!
ガシャーン!
商品棚にぶつかり、ガチャガチャのカプセルが大量に床へ散らばった。
「この!」
ユウが槍を突く。
ザクッ!
「まだ!」
ザクッ!
「こっち!」
ザクッ!
首元へ次々と槍を突き込んでいく。
しかしグリズリーは倒れない。
「しぶとい!」
ユウが叫ぶ。
「首を狙え! 延髄の周辺を潰せ!」
アキラも柳葉包丁を構え直した。
グリズリーは最後の力を振り絞って立ち上がろうとする。
「グル……」
「させるか!」
アキラが走った。
一閃。
スパッ。
巨大な首が、胴体から離れた。
ゴロゴロゴロ……。
グリズリーの首が床を転がる。
「…………」
「…………」
レベルが上がった。
しばらく、2人とも何も言えなかった。
やがて、グリズリーの首元から何かが転がり落ちる。
コロン。
赤い石だった。
「魔石だ!」
アキラが拾い上げる。
手のひらに乗せると、これまで見た魔石より明らかに大きい。
「5センチ……!」
鮮やかな赤色。
アキラの目が輝いた。
「これは……火だ!」
「火?」
「赤い魔石は火属性だ!」
アキラはユウを見る。
「やった! でかしたユウ!」
「私が倒したの?」
「最後に首をボコボコにしたのはユウだろ!」
「でも最後に切ったのアキラじゃん」
「共同討伐だ!」
「じゃあ半分こ?」
「魔石は割れないだろ」
2人は顔を見合わせる。
そして、同時に笑った。
「とりあえず持って帰ろう」
「うん!」
アキラは赤い魔石を大事にポケットへ入れた。
「それにしても……」
自分のミスリルの柳葉包丁を見る。
「ミスリル、強すぎないか?」
グリズリーの右腕を、ほとんど抵抗なく切り落とした。
「オリハルコンの槍も凄かったよ」
「これは装備をもっと強化する価値があるな」
アキラは周囲を見回した。
「……お?」
ガチャガチャ専門店の隣。
そこにはアクセサリーショップがあった。
店内には、ネックレス、指輪、チェーン、留め具、ワイヤー、各種パーツが並んでいる。
「ここだ!」
アキラがカートを押して入っていく。
「魔石を加工するなら、こういう材料が必要だ」
「何を作るの?」
「ネックレスとか指輪とかだな」
アキラは必要そうな材料を次々とカートへ入れていく。
チェーン。
リング。
ワイヤー。
留め具。
工具。
「これだけあれば、いろいろ作れる」
最後にアキラはレジへ向かった。
当然、店員はいない。
アキラは財布から現金を取り出し、レジの前に置いた。
「よし」
そして振り返る。
「釣りはいらないぜ!」
「誰に言ってるの?」
「店員さん」
「いないよ?」
「心の中にいるんだよ」
「意味分からない……」
アキラは満足そうにカートを押した。
服。
アクセサリー材料。
そして5センチの赤い魔石。
だが、彼らが本当に欲しかったもの。
それは、本格的な装備と、この先のホームセンターに眠っている大量の素材だった。
「次は装備!」
アキラは意気揚々と歩き出した。




